多汗症診療における治療選択肢は現在のところ限られている.その中で,患者の生活の質を向上させるため限られた武器(=治療選択肢)の使用方法に精通し,複数を組みあわせることにより,より有効な使用方法を伝えることができるような診療が望まれている.本稿では多汗症における各種治療の特徴と,発汗部位に応じた治療方法の確認,さらに近年新しい外用薬や,医療機器といった治療選択肢が登場したことについて解説する.
後天性特発性全身性無汗症(AIGA)は基礎疾患がなく突如発症する無汗を呈する疾患である.AIGA診療ガイドラインの作成,指定難病に指定されたことで疾患概念が広く知られるようになった.しかしAIGAの病因は未だに解明されておらず,病態解明にむけてさらなる研究が必要な状況である.またAIGAの疫学,病因・病態,鑑別診断や治療について改めて我々の施設での結果やデータの解析も含め解説し,治療後の予後に関しても考察する.
汗は体温や皮膚温の調節,病原体への生体防御,皮膚を潤すことで健康な皮膚の状態を保つ作用がある.ところが,ある状況下において,汗は皮膚炎の発症や悪化に関わる原因となる.例えば,余剰な汗が長時間にわたり皮膚表面で密閉された状況で放置されると汗疹を生じやすい.その他,汗とアトピー性皮膚炎の関係について半世紀以上前から議論され続けてきた.本セミナリウムでは皮膚に影響を与える汗の成分と性状,皮膚炎との関係について,これまでのエビデンスをもとに概説する.
帯状疱疹患者の疼痛に関するエビデンスを得る目的で,アメナメビル錠が処方された患者の1年間の予後調査を開始し,今回753例で6カ月の観察を終了したので中間報告をまとめた.帯状疱疹関連痛は治療開始後3カ月前後で疼痛消失速度が減弱し,主体が侵害受容性疼痛から神経障害性疼痛に移行したと考えた.治療開始時の皮疹,疼痛の程度が高いほど,神経障害性疼痛すなわち帯状疱疹後神経痛発症のリスクが高まることが示唆された.疼痛の質としては,電気ショック様の痛み,しびれ感,温冷痛が残存しやすく,部位では,顔面,頭部,胸背部,上肢での残存率がやや高かった.
KOH鏡検陽性足趾爪白癬で,エフィナコナゾール爪外用液を1~36カ月間使用した240例(平均年齢65.5歳)について最も重症な足趾爪の混濁比を4段階にスコア化して,有効性と安全性を検討した.混濁比が51%以上は86%と重症例が多かったが,外用1カ月で爪新生が認められ,20カ月までは経時的に減少した.治癒率はDLSO 54%,TDO 14%,SWO 100%,PSO 0%,楔型56%で,重症でも約2年継続すると治癒に至ることが判明した.安全性が高く,重症爪でも有用な選択肢の一つになると思われた.
70歳,男性.初診の1年前に急性骨髄性白血病を発症し,化学療法で完全寛解が得られていた.治療の際に使用した左上腕のカテーテル刺入部に2カ月前から暗赤色の結節が出現,次第に増大したため,当科を受診した.病理組織学的に,原疾患と同様の染色性を示す腫瘍細胞の増殖があり,皮膚白血病と診断した.皮膚白血病は過去の炎症や外傷部位に限局して生じる傾向があり,白血病の重要な予後不良因子であることから,これらの部位に皮疹が出現した場合には本症を積極的に疑う必要があると思われた.
65歳,男性.数年前より左頬部の腫瘤を自覚し,増大傾向であった.初診時,中央に10 mmの潰瘍を伴う40×38 mmの淡紅色の皮下腫瘤があり,同側頸部に腫大したリンパ節を触知した.超音波検査で多房性の囊腫構造がみられ,皮膚生検,PET-CTで有棘細胞癌,左頸部リンパ節転移と診断し,切除術と頸部リンパ節郭清術を行い,S-1内服と放射線療法を行った.切除標本では囊腫壁と連続して腫瘍が増生していた.粉瘤より有棘細胞癌が発生することはまれであるが,通常の有棘細胞癌と臨床像が異なる点があり,今後の診療にあたり,特徴を理解しておくことが肝要である.