真皮酸性ムコ多糖をSchillerらの方法に準じて分離後,セルローズアセテート膜電気泳動(泳動液:0.1M醋酸亜鉛液)で分画し,またアルシアンブルー染色性を標準物質のそれと比較することにより,含有酸性ムコ多糖の百分率を算出した.その結果,1.正常真皮では,電気泳動学的にコンドロイチン硫酸およびヒアルロン酸に相当する泳動帯を認め,酵素消化でそれぞれが最終的に同定された.なお,コンドロイチン硫酸Aあるいは同Cは,今回報告の材料では検出されなかった.2.正常真皮4例の検索では,ヒアルロン酸71.5±8.6%,コンドロイチン硫酸B28.5±8.6%であった.但し,これらの成績はカルパゾール試薬によるウロン酸値である.3.著者の行なった方法の正確性と関連して,別にヒアルロン酸含有量の少ない病的皮膚2例について,鈴木らの報告した酵素消化法による成績と比較したが,両者の値はほぼ一致する結果を得た.従来皮膚の酸性ムコ多糖類(acid mucopolysaccharides,AMPSと略)については多くの組織化学的検索があるが,最近になって組織化学的検索が必ずしもAMPSの検出に十分でなく,一部のAMPSは不染の状態にあることが報告されている.杉山は,皮膚・腱などでは,膠原線維間のコンドロイチン硫酸Bは,組織化学的に不染の状態,即ち仮面状態にある(masked)という.著者もさきに鞏皮症皮膚などでは,AMPS反応が一部食塩水浸漬により増強する場合のあることを認めた.但し,この方法で脱仮面化される(unmasked)AMPSは,睾丸ヒアルロニダーゼで消化される.このことは,単にコンドロイチン硫酸Bのみならず,睾丸ヒアルロニダーゼ消化性のAMPS(ヒアルロン酸ないしコンドロイチン硫酸Aあるいは同C)でも,皮膚病変如何によっては仮面状態にあることが推定される.ともかく以上のようなことから,皮膚におけるAMPSの態度を正しく把握するためには,組織化学的検索とともに同時に生化学的に,AMPS分画を測定する必要がある.しかし,人皮膚AMPSの生化学的検索に関する報告はなお極めて少なく,その1因として従来の方法では,比較的大量の材料を必要とすることが挙げられる.それに対し,今回著者は皮膚から分離したAMPSを電気泳動で分画すると,比較的少量の皮膚片で測定が十分であることを知るとともに,また電気泳動で分画されたAMPS泳動帯のアルシアンブルー染色性をdensitometerにかけ,該当AMPSの標準物質のそれと比較することによりAMPSを半定量的に測定し,それらAMPSの分布パターンを知ることが出来たので報告する.
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