集学的治療法の一治療法の開発を目指し,腫瘍に対しX線照射のヘマトポルフィリンオリゴマー(HpO)およびカフェインによる増感効果について検討した.ヒト悪性黒色腫培養細胞(G-361)を用いて,HpOを投与後,X線を照射し,さらにカフェインを添加してDNA損傷度を定量化して比較検討した.G-361のX線によるDNA損傷度は照射量の増加とともに直線的に増加し,HpO投与により,その損傷度は増大した.また,励起一重項酸素の捕捉剤であるアジ化ナトリウム(NaN3)を投与したところ,NaN3は濃度依存性にHpO投与後のX線によるDNA損傷の効果を抑制した.このことからHpOの増感反応には,X線によるHpOの励起エネルギー移動による励起一重項酸素の生成が示唆された.従って,HpOはX線増感剤になる可能性が認められた.さらにカフェイン投与によりDNA修復の阻害が認められ,X線照射単独群よりもHpO投与群の方がその効果が大きいことが示された.次に,C3Hマウスに自然発生した腫瘍にHpOを局注後,X線を照射した結果,X線照射単独群よりもHpO併用群の方が腫瘍の生長は抑制された.組織学的変化の定量化のためカラー画像解析システムを用いて経時的に検索した結果,X線照射単独群よりもHpO併用群の方が,急速に壊死部位の面積比が増大した.照射直後において,X線単独群よりもHpO併用群の方が出血部位の面積比が著明に増加した.従って,HpO併用群の重要な標的の一つとして血管系が示唆された.電子顕微鏡的には,照射直後において,X線照射単独群よりもHpO併用群の方が腫瘍細胞の著明な変性を認めた.また,血管系に関しては,X線単独群では充血像を認めただけであったのに対して,HpO併用群では血管内皮細胞の空胞変性を認め,血管の損傷が顕著であった.Bromodeoxyuridine(BrdU)を用いて経時的に単回標識を施行し,標識率の変化について検討した結果,X線照射単独群よりもHpO併用群の方が有意に標識率が低下した.HpO併用群とHpOとカフェインの併用群の間には,標識率の有意の差は認められなかったが,HpOとカフェイン併用群の方が比較的早期に標識率が低下する傾向が見られた.また分裂率の変化について経時的に検討した結果,標識率と同様の結果を得たが,分裂率はばらつきが大きく,標識率の方が有用と考えられた.さらにDNA損傷度について経時的に検索した結果,照射直後において,X線単独群よりもHpO併用群の方がDNA損傷度が増大した.照射後は次第にどの群においてもDNA損傷は修復されたが,HpOとカフェイン併用群の修復がもっとも遅延していた.以上,in vivoの実験においてin vitro同様,X線照射に対するHpOの増感効果が認められた.カフェインの増感効果に関しては,DNA損傷度の面からは認められたが,その他の検索においては認められなかった.HpOは従来のX線増感剤に比較し副作用が少なく,しかも局所に投与すればほとんど無害であると考えられる.また,カフェインもほぼ無害と考えられ,HpOとカフェインを併用局注してX線照射を施行すれば極めて効果的に癌を治療でき,本療法は将来性ある癌の集学的治療法であると結論された.
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