エルロチニブ(タルセバ
®)はキナゾリン誘導体であり,上皮増殖因子受容体(EGFR)を標的とした選択的チロシンキナーゼ阻害剤である.本邦においては,2007年10月に「切除不能な再発・進行性で,がん化学療法施行後に増悪した非小細胞肺癌」に対する治療薬として承認された.その副作用として皮膚障害が高い頻度で認められるが,これらは一般に薬疹とされるアレルギー性や中毒性の皮膚障害とは異なり,皮膚のEGFR阻害により発現する症状と考えられている.2007年12月から2008年12月までに,当院でエルロチニブによる治療を受けた肺癌患者29例(男性12例,女性17例,平均年齢61.8歳)のうち,27例(93.1%)でなんらかの皮膚障害を認めた.主な症状としては,ざ瘡様皮疹26例(89.7%),皮膚乾燥15例(51.7%),瘙痒症13例(44.8%),爪囲炎9例(31.0%),手足症候群8例(27.6%),脱毛2例(6.9%)であった.エルロチニブ内服後皮膚障害発現までの平均日数は,ざ瘡様皮疹6.4日,皮膚乾燥15.6日,瘙痒症10.3日,爪囲炎40.4日,手足症候群20.8日,脱毛90.0日であった.治療法は,ざ瘡様皮疹と手足症候群はステロイド外用薬と場合によってはミノサイクリン内服,皮膚乾燥は保湿剤外用,瘙痒症は抗ヒスタミン薬内服,爪囲炎はステロイド外用,臨床的に感染を併発したと思われる場合は抗生剤内服や外用,血管拡張性肉芽腫形成に至った場合にはテーピングや硝酸銀による焼灼を行った.これらによりほとんどの皮膚障害はコントロール可能であったが,皮膚障害が原因でエルロチニブが減量となったものが2例,投与中止となったものが4例あった(計6例(20.7%)).皮膚障害出現と肺癌に対する効果の相関性については,ざ瘡様皮疹では,その重症度と抗腫瘍効果に相関性はみられなかったが,皮膚乾燥・爪囲炎・手足症候群が出現した例は,しなかった例に比べて肺癌に対する効果が高いことが明らかとなった.
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