慢性蕁麻疹患者の大部分は,抗ヒスタミン剤を適当に選択使用することによつて膨疹を一時的に抑制することが可能であるが,掻爬や圧迫などの物理的刺激が作用した場合にのみ発斑する人工蕁麻疹の患者においては,その機械的刺激による膨疹発生を抗ヒスタミン剤のみによつて抑制することは,困難な場合が多い.従来の報告を概読しても,抗ヒスタミン剤による人工蕁麻疹の膨疹抑制率は低いようである.例えば,北原の報告ではd-chlorpheniramine(Polaramine)を1日量18mg投与しても,人工蕁麻疹は5例中全例機械的刺激による膨疹発生を抑制できなかつたと述べている.我々の外来においても,大学病院の特殊性から,他医にて抗ヒスタミン剤を投与されて無効のために来院する患者が多いためもあるが,昨年から今年にかけて当科を訪れた人工蕁麻疹10例中d-chlorpheniramine1日量18mg投与にて,明らかにdermographia elevetaの発生抑制効果を認めたものは,わずか2例にすぎなかつた.現在まで,我々は人工蕁麻疹患者に種々の薬剤を投与して,治療効果を検討してきたが,一般に慣用されている抗ヒスタミン剤の奏効があまり期待できない本症に対して,いかなる薬剤を使用すべきであるかを確かめてみる必要を感じ,今回の実験を行なつた.現在,人工蕁麻疹の発生機序としては,図1のように考えているものが多い.キニン系については,Winkelmannの仕事がある.即ちtetrahydrofurfuryl nicotinateを外用すると,dermographismは正常人にても容易に発生し,出来た膨疹部に針をさし,集めた液の中には,ヒスタミン活性はなくて,キニン活性があり,その膨疹形成は,procaine,atropine,cortisone,diphengydramine,compound 48/80にては抑制されず,aspirinがこれを抑制したと報告している.マスト細胞―ヒスタミン系については,数多くの研究がある.ラットの背部に強くデルモグラフィーを行ない,その部皮膚のマスト細胞の態度を経時的に観察すると,5分後において,その大半は脱顆粒し,15分,30分と経過するにしたがつて,次第に正常マストの形態が回復して来る.人体においても,人工蕁麻疹患者にデルモグラフィーを行ない,発生した膨疹が殆んど消退した後,さらに,さきの線状膨疹痕に交叉するように再びデルモグラフィーを行なうと,その交叉部においては,人工蕁麻疹は生じにくい.また,テンプラ摂取により容易に蕁麻疹をおこす患者の胸部にデルモグラフィーを行
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