ヒトメラノーマ細胞株に,12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate(TPA)を作用させ,次に偽パラフィン包理処理を施し,これを免疫原としてマウス抗メラノーマ単クローン抗体を作製した.ヒトメラノーマ細胞株KHm-6を用いIKH-1,IKH-2が,ヒトメラノーマ細胞株A-375よりIKH-4が得られた.生化学的な性質としてIKH-1はTPA作用後のKHm-6細胞由来の34~60kDの糖蛋白と均質に反応した.次いでIKH-2は同じ細胞由来の33.5,34.5そして36.0kDの糖蛋白バンドと反応した.IKH-4では明らかに反応する蛋白バンドは見いだせなかった.免疫電顕所見として,IKH-1の反応産物はTPA処理KHm-6細胞々体内の主としてゴルジ―装置,リソゾームに認められた.そしてIKH-2の反応産物は胞体内のプレメラノソームに一致してみられた.IKH-4の反応はTPA処理A-375細胞膜上に強く認められた.IKH-1,IKH-2,IKH-4の臨床応用として通常のフォルマリン固定,パラフィン包埋組織切片を用い免疫組織化学染色をした結果,IKH-1とIKH-2では悪性黒色腫に対し各々94%,85%の反応性を示した.特にIKH-2はメラノサイト系腫瘍とのみ反応がみられ極めて高い特異性が認められた.一方,IKH-4は悪性黒色腫とは反応せず母斑細胞母斑の約40%で陽性であった.以上の結果よりIKH-1はメラノサイト系腫瘍全般を認識している抗体であり,IKH-2は一部の母斑細胞も認識するが悪性黒色腫とより強く反応し,しかも非メラノサイト系腫瘍とは全く反応しない性格を有していた.IKH-4は主として良性の母斑細胞母斑を認識したが悪性黒色腫とは反応せず,TPAの作用により増加したと考えられる蛋白が母斑細胞と共通の抗原を有している可能性が考えられた.以上よりIKH-1,IKH-2,IKH-4はパラフィン切片下でメラノサイト系腫瘍の識別に有用な抗メラノーマ単クローン抗体であると思われた.
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