Pigmented spindle cell nevus(PSCN)とPigmented Spitz nevus(PSN)の異同につき,臨床的・病理組織学的に検討するとともに,これら疾患が悪性黒色腫の早期病変との鑑別に苦慮することが多いことから,手術前の穿刺吸引蛍光法,術中の病巣割面からのスタンプ蛍光法,術後の病巣中5-S-CD値の測定が悪性黒色腫との鑑別に客観的情報をもたらしてくれるか否かについて検討し,以下の興味ある結果を得た.1)病理組織学的検討:PSCNから5例,PSNが12例で,組織型に関し,PSCNでは境界型が2例,複合型3例,PSNでは境界型2例,複合型8例,真皮内型2例であった.腫瘍細胞の浸潤が乳頭下層までに限局するPSCNに比し,PSNでは乳頭下層までが5例,網状層に浸潤するのが7例であった.PSCN全例,PSN境界型,複合型全例で病巣辺縁部が表皮内胞巣で明確に境されており,表皮内の孤立性腫瘍細胞はPSCN5例中4例,PSN境界型と複合型10例中9例にみられたが,いずれもその数は少なかった.裂隙形成はPSCN全例でみられず,PSN境界型と複合型10例中5例にみられた.PSCN全例で腫瘍細胞内のメラニン量とメラノファージ内のメラニン量がほぼ同等であるが,PSN境界型と複合型では腫瘍細胞内のメラニンの量は全例表皮内胞巣やその直下の胞巣に限られ,メラノファージの存在が目立った.核分裂像はPSCN,PSNとも0~1,2個/nm2で,好酸球性小体はPSCN5例中1例,PSN12例中7例にみられた.2)臨床的事項:PSCN,PSNともに女性に多く,成人にもみられ,罹病期間は約1年,四肢に好発する.臨床像は,PSCNは径6mm以下,扁平台状に隆起,着色が一様な黒色色素斑であり,PSNは,時に径6mmを超え,黒色あるいは黒褐色で,半球状に隆起した丘疹や結節あるいは着色がまだらな黒褐色で扁平台状に隆起した色素斑であった.3)穿刺吸引蛍光法およびスタンプ蛍光法:穿刺吸引蛍光法ではPSCN3例中1例,PSN7例中2例において蛍光陽性腫瘍細胞が観察された.PSCN5例全例,PSN12例中11例で,割面のスタンプ蛍光法では蛍光陽性腫瘍細胞は観察されなかった.いずれの方法でも観察された蛍光陽性腫瘍細胞は1例を除けば,数は少なく,集塊をなし,樹枝状形態を示し,メラノサイト類似の細胞であった.4)病巣中5-S-CD値:PSCNでもPSNでも5-S-CD値が100ng/mg以上の高値を示した例はなく,PSCNにおける平均値は14.5ng/mg(5.2~25.3),PSNのそれは25.2ng/mg(ND~50.0)であった.5)以上の結果から,PSCNとPSNとは同義語ではなく,PSCNはPSNの一異型と考えられた.これら2疾患と悪性黒色腫早期病変との鑑別に,手術前の穿刺吸引蛍光法,術中の割面からのスタンプ蛍光法,術後の病巣中5-S-CD値の測定が有用であると結論された.
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