生体に於ける脂質代謝の研究は古くコレステリンのそれに始り,次でBloor(1916)の画期的業績によつて脂質各分屑の分析がなされ著しい発展を来して来たが,皮膚科領域に於てもFischl(1914),Pulay(1926)等を始め,Urbach(1929),Neumark(1931)等の詳細な研究がみられ,更にGrutz-Burger(1933)等の乾癬,黄色腫等に関しての業績は既に広く知られている処である.又本邦に於ても石丸(大12)以来,村上(昭5),西村(昭7),佐渡(昭27)等の血清コレステリン,尾崎(昭12)の湿疹と諸臓器に関して,又大辻(昭15)の黄色腫に関する動物実験的研究がみられている.然し之等の多くの業績を通覧すると血液の専らコレステリンに関する研究に主点がおかれ,血清脂質の各分屑についての検討は僅かに最近五十嵐(昭22)の論著が見られているに過ぎない.而もこの血清脂質の各分屑と皮脂との関連という様な問題になると,殆ど検討されていないと言つても過言でない.そこで余は各種皮膚疾患について,先ず第1篇では血液に於ける総脂質及び燐脂質,総コレステリン,非燐脂質脂酸等脂質各分屑を早朝空腹時及び脂質負荷により検討し,更に減脂肪食或はホルモン療法のこれら血脂に及ぼす影響と臨床的効果との関係を追究し,引続き第2及び第3篇ではこれら血液脂質と皮脂との関連,更に第4篇では皮膚角化に於けるビタミンAと必須脂酸の問題を検討した.
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