原発巣が自然消褪現象を呈した興味深い悪性黒色腫症例のリンパ節転移巣を培養材料として,悪性黒色腫の培養細胞株を樹立することに成功した.M-ASと命名したこのcell lineは,10%fetal calf serum加RPMI1640培地にて,プラスチック面およびガラス面のいずれにもmonolayerとして増殖し,そのcell pelletは灰白色から淡褐色を呈する.凍結保存可能.増殖は速やかで,population doubling timeは約29時間.培養細胞は細長い樹枝状突起を有する多極性,多角形状の細胞であって,楕円形の核を有する.Giemsa染色やHE染色ではmelanin顆粒は認め難いが,Masson-Fontana染色標本ではmelanin顆粒を少数含有する細胞が散見される.光顕DOPA反応は微弱陽性,電顕DOPA反応陽性.S-100蛋白陽性.染色体分析では,マーカー染色体と考えられるorigin不明なsmall metacentric chromosomeが4本見出され,また異常な形態の染色体が数本認められた.Nude mouseへの異種移植にて腫瘤の形成がみられ,これは組織学的には類上皮細胞型黒色腫細胞の充実性胞巣よりなっていた.悪性黒色腫関連抗原(MAA)については,PAP法にてM-AS細胞膜上にp97aおよびp97b抗原の存在することが確認された.そして,抗p97bモノクロナル抗体(mouse IgG2b)はM-AS細胞に対しcomplement dependent cytotoxicity陽性であった.入江らの発見したMAAであるOFA-Iについてはimmuene adherence法にて,OFA-I-1は認められないが,OFA-I-2は弱いながらも細胞膜上に表現されていることが判明した.
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