エポキシ樹脂の硬化剤として使用される bis(3-methyl-4-aminocyclohexyl) methane によってマウスに実験的皮膚硬化症が発症することを組織学的に検討するとともに,皮膚コラーゲン量を検索し,汎発性常皮症患者皮膚のそれと比較した.さらに従来汎発性翠皮症の治療薬としてその有効性が論じられているプロゲステロンおよびデキストラン硫酸を bis(3-methyI-4-aminocycIohexyI)methane と併用投与し,両薬剤の影響を組織学的に,またコラーゲン量の点から検討し,次のような結果を得た. A-1. bis(3-methyI-4-aminocyclohexyl) methane を腹腔内注射した結果,マウス皮膚に組織学的に常皮症類似の皮膚硬化を認めた.皮膚コラーゲン量については単位乾燥重量あたり総コラーゲン量と中性塩可溶画分コラーゲン量の減少を認めた. A-2.汎発性常皮症患者の前腕および上背部より採取した病変皮膚(浮腫期ないし硬化期)総コラーゲン量も単位乾燥重量あたり,また単位体表面積あたり,対照として選んだ他の疾患患者同部位無疹皮膚のそれに比し低下の傾向を示した. B-1.プロゲステロン単独投与では,マウス皮膚総コラーゲン量は増加し,中性塩可溶性コラーゲン量は減少した. B-2.次にプロゲステロンを bis(3-methyl-4-aminocyc]ohexyl)methane と併用投与した.その結果,皮膚硬化の発生頻度は減少し, bis (3・methyl-4-aminocyclohexyl)methane による総コラーゲン量の減少も認められなかった.しかし中性塩可溶性コラーゲン量はさらに減少した.C-1.デキストラン硫酸単独投与はマウス皮膚総コラーゲン量,中性塩可溶性コラーゲン量に特に影響を及ぼさなかった.C-2.それに対し,デキストラン硫酸と bis (3-methyl-4-aniinocycIohexyl) methane との併用投与では後者による皮膚硬化の発生頻度は減少するとともに,bis (3-methyl-4- aminocyclohexyi) methane 投与で予想される総コラーゲン量,中性塩可溶性コラーゲン量の減少は認められなかった.以上,プロゲステロン,デキストラン硫酸の両者とも bis (3-methyl-4-aminocycIohexyl) methane によるマウス実験的皮膚硬化症の発症に抑制的に働くと考えられるが,それらのコラーゲンに及ぼす効果の相違から相異なる作用機序での抑制が考えられる.
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