正常人の毛髪よりメラニン顆粒を分離精製し試験管内で各種物理化学的処理を加えその脱色・崩壊過程を各々分光光度計,電子顕微鏡を用いて観察した.生体内におけるメラノソームの脱色,崩壊には現在ライソゾームがその主役を果しているとされているが,本実験ではH2O2-peroxidaseの反応系において極めてドラマチックな変化を示した.異物の処理過程において本反応系の関与が生体内で強く想定されている今日,メラノソームの脱色・崩壊においてもperoxisomeがlysosomeと協同してこれを行うことの可能性を示唆した.メラニンの生成過程については,既にFitzpatrick,清寺らの研究によりその概略は明らかとなかったが,一旦生成されたメラニンの生体内での運命に関しては未だ不明の点が多い.メラニン自体は極めて安定した化合物で,試験管内においては通常の化学的乃至物理的操作では容易に破壊されないことで知られている.一方,皮膚においては,紫外線からの防禦を司るという機能面からも,従来メラニン顆粒は崩壊されないものとされてきた.しかし近年の電顕的研究によれば,その電顕的単位であるメラノソームはライソゾームにより若干の形態的な変化を受けることが知られてきた.今回我々は,正常人の毛髪よりメラニン顆粒を分離精製し,各種処理による本顆粒の試験管内での脱色・崩壊過程について検索し興味深い知見を得たのでここに報告し,併せて本顆粒の生体内での崩壊脱色過程の可能性について述べてみたい.
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