悪性黒色腫に対する能動免疫療法において使用される免疫原はヒトにおいて強いimmunogenicityを有することが不可欠である.本条件を満たすヒト悪性黒色腫抗原同定のため,培養ヒト黒色腫細胞より抽出したmRNAに相補的に構成したcDNA expression libraryを黒色腫患者血清によりスクリーニングし,数種の遺伝子クローンの樹立を既に報告した.1029塩基よりなるD-1クローンは約40KDの蛋白抗原をコードし,核酸配列の解析から過去において報告・登録されている哺乳動物由来遺伝子とは有意の相同性を示さなかった.またin vitroにて作成したD-1融合蛋白をマウスに免疫して得られた血清による免疫沈降反応により,D-1遺伝子はヒト黒色腫細胞においては約50KDの細胞膜抗原をコードすることが示唆された.分子量の比較からもD-1黒色腫関連抗原は従来,マウス単クローン性抗体により報告されてきた種々の黒色腫抗原とは異なる新しい分子であることが推定される.本抗原の臨床応用すなわち能動免疫療法の免疫原としての使用にむけ,残された問題点は当該遺伝子のin vivo発現の立証であった.そこで我々は,本抗原遺伝子の皮膚腫瘍における発現を,mRNAをtargetとするin situ hybridizationにより組織学的に検索した.すなわち本報告は,D-1黒色腫抗原および遺伝子が培養条件を介して得られた何らかのartifactではないことを立証するものである.実験は当科にて最近約一年間に生検あるいは手術的に獲得された皮膚腫瘍凍結切片を用い,in situ hybridizationはdigoxigeninを標識源とする非放射性手技に基づいて施行した.検討された悪性黒色腫20例,母斑細胞性母斑10例,有蘇細胞癌4例,基底細胞上皮腫4例,脂漏性角化症4例のうち,D-1プローブの有意なhybridizationは黒色腫では100%,母斑細胞性母斑で10%,他腫瘍では認められなかった.なお,皮膚正常構成細胞であるケラチノサイト,線維芽細胞でもその有意な発現は認めなかった.In vivoにおけるD-1遺伝子の存在は,既に免疫生化学的に確認されているD-1抗原の他のimmunogenicな性状と合わせ,予備的にD-1遺伝子の臨床応用の可能性を示唆するものである.
抄録全体を表示