老化の研究には,暦年齢以外に,生物学的年齢が必要と考えられるようになり,多くのバイオマーカーが開発されてきている.その中で,老化関連疾患の老化速度を遅くするだけでなく,若返りを目的とするアンチエイジング薬の開発にも使えそうなDNAのメチル化を基礎にするEpigenetic Clock(EC)が開発されてきた.Epigenetic Aging Clock(EC)は,DNAのメチル化レベルから求めた生物学的年齢をいう.Epigeneticsな化学修飾は,一次DNA配列に影響を与えないDNAまたはクロマチンへの化学的変化で,DNA塩基またはヒストンタンパク質へのメチル基,アセチル基の共有結合(または除去)が主である.この時計はDNA上の一定数(数十から1,000個程度)のCpGジヌクレオチドのDNAメチル化を測定して割り出す.少なくとも,老化の機序にDNAのメチル化が重要な役割を果たしていることも明らかとなった.さらに,ECを基礎にAIを用いてAging Clockと呼ばれる臨床応用に有用な種々の老化時計が開発されている.老化プロセスは複雑で老化のバイオマーカーは重層的で多面的であることから,今後も多くの老化時計が作られると思われる.皮膚領域は,疾患として老化を見る機会が多く,ECは臨床応用に有用と思われる.
皮膚の老化は内因性老化と外因性老化に分けられる.通常の老化は内因性老化に相当する.外因性老化のうち,慢性の紫外線曝露によって生じるものを「光老化」という.内因性老化では浅いシワが増え,皮膚が乾燥しかつ菲薄化する.真皮では膠原線維や弾性線維の合成が減少し,膠原線維のクロスリンクが増加し,弾力性が低下する.光老化ではシミ・シワが増え,皮膚がたるむ.真皮では日光弾性線維症が特徴的である.これはエラスチンの合成が亢進し,そこにエラフィンの結合,糖化,ラセミ化が起こり,好中球エラスターゼに対して抵抗性となる.
高齢化社会を迎え,慢性の紫外線曝露による光老化の治療を求められることが多い.光老化を予防するためには,遮光が必須である.サンスクリーン剤について正しい知識を持って活用することが肝要である.シミ,シワについては種々の治療法が確立されている.特にケミカルピーリング,IPL(Intense Pulsed Light),レーザー治療については繰り返し用いられることが多く,光老化皮膚に対して,長期反復して治療に用いた場合の安全性について検証した結果とあわせて解説した.
リツキシマブ(RTX)はB細胞に発現する細胞表面CD20抗原に対する抗体である.国内外から自己免疫性水疱症に対する有用性が報告され,2021年12月に本邦でも天疱瘡に対する適応承認が追加された.保険承認に先立ち,当科では既存治療で難治の自己免疫性水疱症4例(尋常性天疱瘡2例,落葉状天疱瘡1例,ラミニンγ1類天疱瘡1例)にRTXの投与を経験した.いずれの症例も投与後に臨床的改善を認めたが,2例で症状が再燃した.重篤な副作用は認めていない.これら4例の症例報告とRTXの治療効果について文献的考察を踏まえて報告する.
54歳男.膀胱癌Stage IVに対し第3次治療としてenfortumab vedotin(EV)を開始した.初回投与3日後に両側腋窩や側胸部に瘙痒感を伴う淡い紅色局面が出現し,徐々に範囲が拡大.病理組織学的に,表皮全層性に核異型や個細胞壊死を散見し,好酸球浸潤を認めた.EVによる皮膚障害と診断し,対症療法にて原病治療継続中.EVは正常表皮内にも発現するnectin-4を標的とした抗体薬物複合体で,約半数の症例で投与早期から皮膚障害を認める.重症化も報告され,皮膚科医の早期介入が望ましい.