皮膚血管系の精細な研究は,Spalteholz(1927)に始まる.彼の示した皮膚血管分布模型図は現在もなお,多く引用され,末梢小動静脈,毛細血管を除く比較的皮膚深部の血管走向は,最近のMontagna,Ellis(1962)もこれを承認しており,皮膚血管系分布図の基本をなしている.今,彼の記載にもとづき,一部はその後の研究もあわせて,皮膚血管分布に関する現在の所見を記述すると次の如くである.皮膚に入る動脈は,皮膚のみに血液を供給する血管(Reine Hautarterien,direct or cutaneous arteries(Montagna))と,皮膚の外,筋肉その他の組織に血液を供給する血管(Gemischte Hautarterien,indirect arteries(Montagna))に分けられる.Reine Hautarterienは,筋束間の結合織を貫通し,Gemischte Hautarterienは,筋束内を筋肉枝を分枝しながら通り,皮下筋膜を貫通して皮下組織にあらわれる.皮膚血管の分布状態は,諸臓器における程一定せず,身体各部位により大きい差が見られる.したがつて,その基本型としてSpalteholzは次の様式をあげている.皮下組織に入つた動脈は,皮下筋膜の直上及びその近傍でそれぞれ分岐吻合(zweigen,anastomosieren)を行ない,粗な血管網を形成する.これをfasciales Netzとよぶ.この血管網より上行枝が分枝し,皮下組織を上昇,皮下組織真皮境界部で分枝吻合して,皮表に平行する血管網をつくる.これをcutanes Netzという.これから細い上行枝が分枝し,乳頭下において再び分枝吻合を行ない,subpapillares Netzを作る.Cutanes Netzから上行枝が上行し,分枝する状態が大燭台に似ることから,PetersenはKandelaberarterienとよんだ.Spalteholzは,被髪頭部及び顔面を除く身体各部の血管分布状態を,以上の基本型をもとに,A.B2型に分類した.すなわち,A型は,臀部,手掌足底にみられるもので,皮下組織の比較的深層で分岐し,吻合をくり返しながら上昇し,真皮皮下組織境界部で真皮動脈網(cutanes Netz)を形成する比較的単純な血管分布を示すもの,B型は,胸部,頚部,腹部,上下肢にみられるもので,近傍の動脈と細枝をもつて,時々吻合することはあるが,多くは,そのままの形で皮下組織を通り,真皮皮下組織境界部で表面に凸を向ける弧をえがきながら近傍の動脈と吻合,互に連絡枝をだしあつて真皮動脈網を形成する比較的広がりをもつ血管分布を示すものである.以上の外に皮膚血管分布は,部位的に相当幅広い変化を示す.その主なものを記すると次の如くである.
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