エリテマトーデス皮膚で表皮真皮接合部に一致してγ-グロブリンの沈着があり,この部はまたPAS反応陽性であるとの報告は数多く,本疾患に特異的であり診断的価値があるとの報告もされている.γ-グロブリンの種類についてはIgGはほとんど常に存在しIgM,IgA,β1cグロブリン,アルブミン,フィブリノーゲンもまた時にその存在が証明されている.これらの免疫グロブリンが表皮真皮接合部の基底膜と反応した抗体でないことは,エリテマトーデスの流血中には本抗体が存在しないことが蛍光抗体間接法で証明されている.従つて表皮真皮接合部とこの部に存在するγ-グロブリンとの関係は光学顕微鏡上での同一部位にある点以外判つていない.一方電子顕微鏡の観察によりそれまで光顕上でPAS可染性が目標とされた基底膜は単位膜でなくまた単一の構造のものではなく,細胞直下の200~300Åの電子密度の低い部(Lamina lucida)と,それに続く,中等度電子密度を有する等質性の300Åの帯(Lamina densa)とこれに接し真皮側に存在する線維性の結合織Zona diffusa(Basement Lamella)の3層からできている.これらの内で狭い意味で基底膜と電顕的に呼ばれているのはLamina densaである.電顕組織化学的にPAS反応が陽性となる部位は線維性結合織より成るZona diffusa(Basement Lamella)であり,これは鍍銀染色によつても同様であり,他の二層は陽性ではない.従つて電顕的な基底膜は光顕上に認められるPAS陽性,鍍銀染色陽性とは関係がない.電顕形態学的にほぼ等質性の構造を呈する基底膜がエリテマトーデスでどのような変化を示すかについては,基底膜より連続的に等質,中等度電子密度の物質が真皮のコラーゲンに波及し,ちょうど基底膜が表皮から剥離したように細胞間質へのびている.これは一見基底膜の肥厚に見え,われわれはこれをすだれ状の基底膜の肥厚と呼んだ.この状態は表皮真皮接合部基底膜のみならず血管基底膜にも認められ,このほか数層になつた基底膜もしばしば観察される.かかる本来の基底膜と病的に増加した基底膜との間に見られる連続的な変化は電顕上ではこの両者を区別できないことを示している.基底膜(Lamina densa)と病的に増加した基底膜,およびγ-グロブリンの沈着との関係を明らかにするためにパーオキシダーゼ抗体を用いた免疫電子顕微鏡法によりエリテマトーデス病変皮膚の基底膜を中心に観察を行なつた.
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