正常汗器管を構成する細胞における複合糖質糖鎖の性状,分布を検索し,それらの結果をもとに,23例の汗器管腫瘍の発生母地,分化の方向を糖鎖構造の面から検討した.また悪性化に際しての糖鎖の変化の有無についても検索した.方法は糖特異性の判明しているCon A,WGA,RCA-I,PNA,SBA,DBAの各レクチンを使用し,Avidin-Biotin-Peroxidase Complex(以下ABCと略記)法により光顕下で観察し以下の結果を得た.1)Con A,WGA,RCA-Iは正常汗器管を構成する全ての細胞に陽性反応を示した.特にRCA-Iはエックリン腺分泌部の表層細胞,アポクリン腺の分泌細胞に強陽性を示した.DBAはエックリン腺の表皮内汗管,分泌部の基底細胞に強陽性を示し,真皮内汗管では管腔側の細胞膜にのみ弱陽性を示した.SBAはエックリン腺分泌部の基底細胞にのみ強陽性を示した.PNAは全ての細胞で陰性であった.2)正常汗器管を構成する細胞とレクチン反応性の点で明らかに類似性が認められた腫瘍はsyringoma,eccrine hidrocystoma,apocrine cystadenomaであった.すなわちsyringomaはエックリン腺の表皮内汗管,eccrine hidrocystomaは真皮内汗管,apocrine cystadenomaはアポクリン腺の分泌細胞に糖鎖構造の面で一致していた.eccrine poroma,clear cell hidradenoma,eccrine spiradenomaの各腫瘍は糖鎖構造から腫瘍細胞の発生母地を推測することは出来なかった.3)悪性汗器管腫瘍では正常汗器管を構成する細胞及び,良性汗器管腫瘍で陰性反応を示したPNAが陽性反応を示した.このことより悪性化に伴ない糖鎖構造が変化する可能性があるものと考えられた.
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