色素細胞の所在,形態並びに機能に就ては,過去数十年に亙る先学の探究された所であるにもかゝわらず,今日尚幾多の未解決の問題が残されている.又メラニンの形成機序に就ても,BlochのDopa-oxidase説に対し,Bertrand(1895),Furth(1901),Hogeboom,Adams(1942)等を経て,Fitzpatrick et al.(1950)が,人体皮膚に於いて,Tyrosinaseの証明をhistochemischに証明し,筧がmanometricに人体皮膚のTyrosinaseを確認し,近時Tyrosinase説に傾きつゝある傾向にあると考えられる.次に色素細胞に就て顧みると,Blochが生体の細胞にして色素を有するものを2つに大別し,自所的生産によつて細胞内に色素を持つものと,自細胞外から何等かの段階を経て,色素を含有するものとに分ち,前者をMelanoblast,後者をMelano又はChromatophoreと名付け,兩者を総括して,色素細胞Melanozytenと呼んだ.このうちChromato phoreの語は,他の学者によつては別の意味にも用いられ,例えばTiech(1906)は青色母斑細胞をChromatophorenと呼び,Du Shane(1943)は魚類,兩棲類,爬虫類に見られ,そしてそれは,ホルモン,神経系及び物理化学的刺激の影響を受ける特異な分枝状色素細胞をChromatophorenと呼んでいる.動物に於ける此の種の細胞の含有する色素は通常褐色乃至黒色の顆粒をなすが,これとは別に,液状の黄色々素を含有する細胞としてXanthophore,更に液状の赤色々素を含有するAllophore,グワニン結晶を有するGuanophore,無機塩類結晶を含有するIridocyte,黄白の結晶及び液体を含有するXantholeucophore等が分類されているが,Melanocyteなる語に就ては,例えば,Becker-Fitzpatrick-Montgmery(1952)はMelanoblastなる語は成熟細胞には適切でないとして,これに代るものとして,Melanodendrocyte,又はMelanogenocyteの新稱を提唱した.Fitzpatrick-Lerner(1953)はその後更に色素細胞の分類を企て,成熟メラニン形成細胞をMelanocyte,未成熟メラニン形成細胞をMelanoblast,メラニン貪喰細胞をMecrophage又はMelanophage,下等動物のContractile cellをMelanophoreと呼んだが,この新分類,新名稱は,今日一般的に略々認められるに至つた.即ち現在アメリカで大体認められている分類は次の様である.Terminology of Pigment cells. Mature melanin-forming cell MELANOCYTE. Immature melanin-forming cell MELANOBLAST. Cell with phagocytized melanin MACROPHAGE(or MELANOPHAGE). 私も本分類に賛意を表し,以下Melanocyteなる語は上記の表に從つて使用する.さてこのMelanocyte内でTyrosineを基質として,如何にしてMelaninが出来るかと云う問題に対し,研究の方法は種々あるが,先に久木田15)により発表された放射性チロジン使用による色素細胞チロジナーゼ活性に就ての発表を見て,私は同氏の方法の変法により大体同一結果を見たが,一方新しくCuを使用することにより又一新知見を得た.同方法はメラノサイトのチロジナーゼ活性を知るには極めて優れた方法であるが,その微細構造を知るには不充分である点から,私は主として毛鞘のメラノサイトを電子顯
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