毛髪は皮膚附属器として身体の最外層を占め,外界からのあらゆる刺戟に対する緩衝地帯として対内保護を営み,また美容的役割をはたす.この毛髪の生理機能については組織化学的,内分泌学的および精神神経学方面から多くの研究がなされ,またその物理学的な性質についても古くから多くの研究,調査,測定が行われて来た.しかし,これら毛髪の構成成分,形態,発育,物理学的性質などの綜合的表現とも思われる毛髪の比重についての研究は案外に少ない.発生学的に毛髪が表皮,とくに基底細胞層に生ずる毛芽に発し,真皮中に延びて毛索となり,その周辺から毛管が,その尖端の真皮細胞集団から毛乳頭が生じ,毛球の増殖と角化によつて毛髪を生ずることを思えば,毛髪の性状が皮膚機能によつて影響されることは当然考慮される.もちろん,毛髪の発育には毛周期があり,成長期Anagen初期にある毛髪か,休止期Telogenに近い時期の毛髪かによつて多少の差のあることは考えられるが,毛髪の成長速度が季節により(0.30~0.54mm/day―須毛―Eaton),年令により(0.13~0.25mm/day―大腿―Myers),また夜と昼とでも異なる(Berthold)との成績は毛周期の如何なる時期においても毛髪の成長(発育),ひいてはその性状が皮膚機能の生理的変動と関連があると考えてよい.荒川教授一門の研究は皮膚生理機能の年令的な推移,性別差,季節的変動,部位的差異などを明らかにしている.従つて私は今回邦人健康者の毛髪比重について,その年令差,性別差,季節変動,部位差,毛幹基部と毛尖の差,毛根固着力と比重との関係を追求し,皮膚機能との関連を窺うことを目標としたのでその大要を報告する.
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