化学発癌剤 20-Methylcholanthrene (以下20MC)によるマウス皮膚癌作製実験系に助発癌因子と考えられている croton oil, 臨床的に皮膚癌の治療に用いられる経皮感作原性物質 2-4-dinitrochlorbenzene (以下DNCB),および,それとは交差感作のみとめられない oxazolone を併用し,それぞれの発癌率,発癌過程の光顕的,電顕的検索をおこなった.また同時に,各動物の腫瘍病巣における T-Iymphocyte の動態を HorwitZ8) の方法により acidα-naphthy1 acetate esterase(以下ANAE)染色を行なって観察した その結果, DNCB および oxazolone と 20MC 併用群では 20MC 単独群および croton oil-20MC 併用群に比し,有意の差をもって発癌が抑制された. 組織学的,電顕的検索では, 20MC 単独群, crotonoi1-20MC 併用群で好中球浸潤が著明であるのに対し,DNCB, oxazolone 併用群ではリンパ球浸潤が優位であり,さらに,電顕的には,表皮keratinocyte にリンパ球の細胞質突起が突入する所見がみとめられた. ANAE 染色標本では, DNCB, oxazoloneと20MC 併用群で実験初期より局所皮膚への T-lymphocyte の浸潤がみとめられ,終了時まで持続したのに対し 20MC 単独群 croton oil-20MC 併用群では,腫瘍塊の形成にともなって初めてみとめられたにすぎなかった.これらの実験結果より,発癌の抑制は DNDB, oxazolone による感作にもとづく T-lymphocyte の局所への浸潤によるものであり,さらに,これら感作原性物質と腫瘍細胞が結合することにより,より一層,抗原性の高まつた腫瘍細胞を target cell として T-lymphocyte が攻撃するためであろうと考えた.
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