天疱瘡は,自己抗体を介する自己免疫性水疱性疾患である.尋常性天疱瘡(PV)の自己抗原は,デスモグレイン(Dsg)3であり,落葉状天疱瘡(PF)の自己抗原は,Dsg1である.現在,天疱瘡の血清学的診断には,蛍光抗体法が広く施行されている.PVとPF両者とも表皮細胞表面に対する抗体をもち,蛍光抗体法では同様の染色パターンをとり,両者を区別することは困難である.そこで,新しい自己抗体の検出法として,バキュロウイルス発現系により作成したDsg3及びDsg1組換え蛋白を抗原として用いたELISA (Enzyme Linked Immunosorbent Assay)法を構築した.既に我々は,ELISA法が蛍光抗体法よりも感度及び特異度が高く,ELISAスコアは天疱瘡の病勢を反映していることを報告している.しかし,定量化しELISAスコアを算出するために検体を3系列希釈し,また標準検量曲線を得るため標準検体を8系列希釈する必要があり,やや煩雑であった.本研究では,検体を1希釈にし,抗体価を陽性コントロールとの比より算出しIndex表示し,より簡便にし改良したELISA法を作成した.検討した血清は,当教室経験例で,PV18例,PF10例,水疱性類天疱瘡(BP)20例,また,正常人血清47例である.Dsg3 ELISAにおいては,PV18例全例が陽性を示したのに対し,PF 0例,BP 0例,正常人血清1例のみが陽性と判定された.Dsg1 ELISAにおいては,PF10例全例が陽性を示し,BP,正常人血清では全例陰性と判定された.PV血清は,Dsg1 ELISAにおいても10例(55.6%)が陽性を示した.感度,特異度は,Dsg3 ELISAの場合,それぞれ100%,97.9%であり,Dsg1 ELISAの場合,両者とも100%であり,良好な結果を得た.また,臨床的にBPやLinear IgA bullous dermatosisなどの天疱瘡以外の診断であるにも関わらず,蛍光抗体法では天疱瘡様に表皮細胞表面が染色されるような症例(n=10)でも,本ELISA法では,全例陰性と判定され,蛍光抗体法よりも特異度の高い検査法であることが意味づけられた.Index値を用いたELISA法は,感度,特異度共に高く,また,簡便な検査法であり,天疱瘡の診断において日常診療で利用しうる実用性の高い検査法であることが結論され,また,天疱瘡の免疫学的発症機序の解明においても有用な方法であると考えられた.
抄録全体を表示