今回我々はkeratinocyte proline-rich protein(KPRP)というバリア機能関連の蛋白遺伝子がアトピー性皮膚炎の病態に関与していることを明らかにした.KPRPはアトピー性皮膚炎患者の病変部では発現が低下しており,その局在はloricrinの発現場所と組織学的に一致していた.KPRPノックアウトマウスを作成してさらなる分析を行ったところ,KPRPが欠損しているとデスモソームの構造異常が生じ,角質層が剝れやすいことが明らかになった.
芳香族炭化水素受容体(Aryl Hydrocarbon receptor:AHR)は,表皮細胞に豊富に発現する化学センサーである.ダイオキシンなどの酸化ストレスを生じるリガンドによるAHRの過剰な活性化は,塩素ざ瘡や皮膚炎を誘発する可能性がある.一方で,抗酸化作用を発揮するリガンドでは,抗炎症効果に加えて,皮膚バリア機能の修復効果が得られる.AHRは皮膚バリア機能に重要なフィラグリンの発現を調節する役割があるが,この調節機構にOvo-like 1(OVOL1)が密接に関与する.今後,AHRとOVOL1に働きかける化合物によるアトピー性皮膚炎の新規治療が期待される.
2型自然リンパ球(ILC2)はIL-4やIL-33によって増殖・活性化する.アトピー性皮膚炎(AD)患者はIL-33が表皮で過剰であり,IL-33を過剰発現させた遺伝子改変マウスの皮膚炎は,ILC2を消去すると消失した.AD患者にデュピルマブを投与してIL-4を阻害すると末梢血中ILC2が減少したが,デュピルマブ投与によってILC2が減少した患者ほどデュピルマブの有効性が高かった.このように,ILC2はADの病態に深く関与している.
外陰部乳房外Paget病(EMPD)では稀ならず多中心性に病変を生じる.今回,多中心性病変を生じた男性EMPD3例につき検討した.症例は50~70代で,陰囊周囲に複数の病変(各7,5,5病変)を認めた.2例で真皮内浸潤を認め,1例ではセンチネルリンパ節転移陽性であった.2例は熊野らの分類における陰囊数珠状型,1例は陰茎偏奇型と陰囊辺縁型の混合型もしくは陰囊数珠状型の不全型と考えた.斑状病変にもかかわらず真皮内浸潤を認める症例や,境界が不明瞭で肉眼的無疹部に病変が存在する症例があり注意を要する.
免疫チェックポイント阻害薬による皮膚障害の重症化因子および皮膚障害の臨床型分類を検討する目的で,免疫チェックポイント阻害薬の使用経過で皮膚障害を発症した163人に対してアンケート形式の調査を行った.本研究では,有意な重症化因子は同定されなかったが,対象疾患と臨床型の検討で悪性黒色腫と白斑,肺癌と扁平苔癬様皮疹に関連がみられ,対象疾患により特徴的な臨床型を呈する可能性が考えられた.皮膚障害の重症群は全体の約10%であったがTENが2症例あり,免疫チェックポイント阻害薬投与中の重症薬疹に注意すべきと考えられた.
近年の研究で,痒みが患者の生活の質(QOL)や精神面に及ぼす影響が明らかとなり,痒みの治療の重要性が見直されている.本稿では,痒みのメカニズム,分類,評価法など痒みについて概説し,特に皮膚疾患に伴う痒みが患者のQOLや睡眠,精神面に及ぼす影響について既報を基に考察した.痒みは,時に皮膚症状以上に患者QOLを障害し,睡眠障害や精神系疾患の発症とも関連することが示唆されている.患者のQOLを向上させるためには,原疾患はもちろん個々の患者の痒みにフォーカスした治療を行うことが重要と考える.
尋常性白斑(vitiligo;以下,白斑)はメラノサイトの消失により表皮メラニンが減少する後天的自己免疫疾患であるが,その病態はいまだ解明されていない.表皮細胞の細胞核の上方に分布したメラニンが,紫外線による核のDNA障害を防御し発癌リスクを減ずることはよく知られている.そのため,Fitzpatrick分類scale Iの白人や白皮症患者では,紫外線発癌が多発する.しかし,予想に反して白斑患者においては紫外線発癌が少ないことが多くのコホート研究で明らかにされた.この総説では,白斑の表皮に備わった発癌回避機構につき,最近の論文をもとに仮説も含めて概説してみたい.