トリコスコピーを使いこなし,毛髪疾患の診療に活かすために役立つ知識を解説する.トリコスコピー所見は「毛器官の障害」,「毛周期異常」,「毛幹形態異常」に分けて捉えると理解しやすい.この病態別に代表的所見を整理した上で,フローチャートを用いた診断法を紹介する.さらに,疾患合併例や複雑例にも対応可能なフローチャートの活用法「2ステップ法」を取り入れ,症例を提示しつつ診断の実際について述べる.
臨床所見のみでは診断が困難な脱毛症では,病変部の生検によって得られる病理組織学的所見が診断に必須となる.生検によって,浸潤細胞の種類と程度,免疫グロブリンおよび補体の沈着,毛組織の形態,毛周期の状態を把握できる.これらを効率的に評価するには,垂直断標本に加えて4 mmパンチを用いた水平断標本を作製する.本稿では毛組織の基本構造,頭皮生検および標本作製の実践法を含めた系統的皮膚生検法について解説し,代表的な疾患のポイントをあげながら,脱毛症における病理診断法について解説する.
円形脱毛症は,成長期毛包の毛球部が自己免疫性の機序により破壊されることで脱毛をきたし,一部の患者では長年に亘り慢性の経過をとる難治性皮膚疾患である.本邦における円形脱毛症の診療ガイドラインは日本皮膚科学会によって2010年に作成され,その後の病態のさらなる解明や各治療法の使用実績の蓄積などを踏まえ,2017年に改訂された.2017年版のポイントは,ステロイド外用療法およびかつらの使用の推奨度が上がり,紫外線療法についても内容がより充実したものになったことなどである.円形脱毛症では,診療ガイドラインを参考にしながら,患者の年齢,病期および重症度に応じて柔軟かつ適切に治療法を選択することが重要である.
男性型,および女性型脱毛症の治療の治療は情報が溢れており,医療者も患者も振り回されがちである.しかし科学的根拠の有無という見地に立てば,それら情報整理は意外にもシンプルである.適切な診断のもと,それぞれの治療方法の根拠と有害事象をよく理解した上で選択できるようにまとめられている診療ガイドラインのエッセンスを概説した.
特発性後天性全身性無汗症(AIGA)の診断には,ミノール法を代表とするヨードデンプン反応を利用した温熱発汗試験が一般的である.通常,同試験では全身皮膚への試薬塗布が行われるが,全身への試薬塗布は患者・医療者双方にとって肉体的・時間的負担が大きい.当科ではそれらの問題を解決するため,同試験を12カ所のスポットで施行している(スポット法).スポット法により診断されたAIGA 30例の解析から,AIGAでの無汗・低汗部位として上腕・前腕・大腿・下腿の四肢で最も頻度が高いことが示唆された.
デュピルマブは難治性のADに対して非常に有効性が高く,臨床試験では部位による効果の差を認めなかった.しかし,実際には頭頸部のみデュピルマブの効果が乏しい症例を経験する.今回,我々は当院でのデュピルマブを使用した34例において4週と16週時点でのEASI改善率を頭頸部,上肢,体幹,下肢の部位別に分けて解析した.その結果,16週時点では頭頸部は他の3部位と比較して有意にEASI改善率が低い結果となった.また,頭頸部のみ増悪する症例も認めた.このような結果の要因を過去の文献的考察を含めて考察する.
ホスラブコナゾールL-リシンエタノール付加物(F-RVCZ)を含む爪白癬に対する薬剤の費用対効果を,完全治癒率と質調整生存年(quality-adjusted life years:QALY)をアウトカムとして評価した.
各薬剤の標準的な投与期間における投与開始48週間後の評価をした場合,F-RVCZを最も安価のテルビナフィン後発品と比較すると,費用は57,361円増大し,完全治癒率は20.7ポイント増加する.完全治癒者1人増加当たりの増分費用効果比は,277,155円,1 QALY獲得あたりの増分費用効果比は1,979,681円となり,一般的に許容可能な上限値(500~600万円/QALY)の水準を下回っており,費用対効果に優れた薬剤であると判断した.
2018年までの実臨床での各生物学的製剤の使用,および中止,変更を調査した.1年当たりの使用患者数は2017年まで増加していたが,2018年は初めて減少した.尋常性乾癬と乾癬性関節炎の患者229人のうち64%の患者は1種類の薬剤のみで治療され,36%が他剤に切り替えられていた.2017年までと同様にTNFα阻害薬の使用は減少し,IL-17阻害薬が増加していた.乾癬性関節炎の患者では,TNF阻害薬は尋常性乾癬患者よりも頻用されていたが,2018年ではIL-17阻害薬が過半数を占めていた.