癩病変を記載するに当つて,之を幾つかの病型に分類して記載することが必要である.癩の病型分類はCairo(1938),(Havana1948),Madrid(1953),東京(1958)と度々の國際会議で論ぜられたが,未だ諸家の間に完全な意見の一致は見られて居ない.病型分類に於いて意見の一致し難い所以の最も大きいものは之を論ずる諸家の立場が異なるため,或はfield workerを対象とする実用性に重点を置き,或は理論的興味を中心として,病理組織学的若しくは免疫学的厳密性に主眼を置くということにあろう.また癩の病型分類に関しては國際的のみならず,國内諸家の間にも可成りの意見の相違があるものの如くである.Madrid分類に到る経過並にMadrid分類に対する批判的評價の詳細はCochraneの論文に譲るが,Cairo会議とHavana会議の間にドイツの病理学者W,Bungeler(1948)が,多数の患者につき臨床的所見と病理組織像とを詳細に比較檢討して得た業績も亦注目に價する.Bungelerは癩腫型と結核様型とはその病源菌が同一であるにも拘わらず,病理組織学的に全く別個の病変であることを指摘し,兩型の中間にdas “uncharakteristisches Infiltrat”(U.I.)なる概念を導入した.Bungelerの所謂U.I.は概ね次の如くである:癩性病変は先ずU.I.としてはじまる.此のものは病理組織学的には皮膚の慢性炎症性浸潤であつて,浸潤細胞は小淋巴球を主とし,形質細胞及び少数の白血球より成り,浸潤は主として神経,血管及び毛嚢の周囲並に皮膚疎性結合織にある.また尺骨神経等の末梢神経にこの種の浸潤を見ることがある.光田反應は陽性若しくは陰性.皮膚組織からの菌証明は半数に陽性である.U.I.は臨床的には扁平紅斑(das flache Erythem),脱色性若しくは色素沈着性紅斑(das depigmentierte bzw.pigmentierte Erythem),單純性脱色斑若しくは白斑(die einfache Hypochromie und Achromie)との3者に分類することが出来る.最後のものは多くの場合結核様癩の治癒した状態である.U.I.の臨床的特徴は皮膚の色の変化だけであつて,皮膚の浸潤,肥厚,結節形成等を欠くものである.若しU.I.に皮膚の肥厚が加われば,それは結核様型若しくは癩腫型への移行の起つて居る証據である.その際組織学的に檢査すると,浸潤開始の初期に於て既に,或はb\々臨床的に皮膚の肥厚の始まる前に,結節の形成(pratuberkulide Veranderung)若しくは癩菌を有するVirchow細胞(Pralepromatose Veranderung)によつて鑑別診断することが出来る.U.I.は癩に於ける早期病変,但し原発病巣(Primaraffekt)ではなくて,寧ろ皮膚に於ける早期全身化(Fruhgeneralisierung)であつて,此のものは更に発展することなくそのまま治癒に就くか,或は更に発展して結核様型若しくは癩腫型になるものである.また結核様型が吸收してU.I.に変ずるものである.(上述)Bungelerの所謂U.I.は之をMadrid4a)会議の分類に比べると,Madrid分類のindeterminate group(1)に略々該当する.またMadrid分類のborderline(dimorphous)group(B)に該当するものはBungelerの分類には見られない.Bungelerがその3病型相互の関係を圖示したもの(同氏論文549)にMadrid分類を加味するとFig.1(川村,白﨑)となる.諸家(光田,林,佐藤,高島,西占,日本学会案,Wade,Cochrane)の述べる所をも比較孝按した結果,簡單なため著者はMadrid分類に據つて記載することにした.
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