皮膚科の日常診療は,1人あたりは短時間で,多くの患者の診察をしているところが多いのではないかと思う.しかし発疹があることがストレスになるケースや,その逆のケースもある.皮膚科医が日常診療の中に少しでも簡単な心理療法を取り入れることができれば,患者の悩みも少しは減るものと思われる.初心者には「1分間傾聴」をお勧めしたい.それができるようになると,診療の中に取り入れてもらえれば,救われる患者は増えると思う.
行動科学的アプローチの目的は,患者の行動を望ましい方向に変化させることである.皮膚心身症では,しばしばものごとの捉え方の問題がストレス対処を困難にしている.ストレス対処スキルとして,ストレス解消やソーシャルサポートなど簡単なものから勧めるとともに,日記などのセルフモニタリングのツールを活用して,行動修正を図る.心身相関への気づきと,捉え方や行動の変化が促されると,セルフケアが達成されていく.
アトピー性皮膚炎や乾癬などの慢性皮膚疾患の診療では,医師と患者が正しい知識と情報を共有した上で,自発的な治療意欲を高めて持続させることが大切である.また,皮膚疾患が心理社会面に影響し,心理社会的因子が皮膚症状に影響するという心身相関がみられる.これらの課題に対して,医師と患者のコミュニケーションを通じてアプローチする方法として,「コーチング」と短期療法の「解決志向アプローチ」を中心に概説した.
森田療法はあるがままの生き方をめざした,日本で生まれた心理療法である.不安を取り除くことを目的としていない.不安はそのままに,やるべきことを行うように指導する.あるがままの体得がとらわれからの解放と性格の陶冶を生じさせ,考え方や生きる姿勢に変化を生じさせる.その結果,症状(あるいは症状に対する考え)に改善がみられるようになり,あるがままの生き方が身に付けば,人生に対する受容の心もうまれてくる.
難治となった皮膚疾患患者の中には,皮膚症状や感覚,搔破や摩擦などの行動にとらわれ,難治化している患者がいる.搔破などの行動を止めさせるためには,まずかゆみや皮膚症状に対する治療が必要であり,同時に,とらわれの背景にある心理的要因を配慮する必要がある.筆者は,リフレーミングなど様々な心理技法もとりいれながら,森田療法の理論を基軸とした心理指導を行っている.これらの心理指導が,皮膚科的治療をより効果的なものにできると考えている.
当院医療従事者対象の新型コロナワクチン集団接種に際し,出現した局所および全身副反応に関するアンケートを配布し回収した677例を検討した.結果,全身副反応出現率は1回目に比べ2回目が有意に高く,2回目の全身副反応出現率は女性が男性に比べ有意に高く,またアレルギー既往歴のある群がない群に比べ有意に高かった.一方60歳以上では60歳未満に比べ1,2回目とも局所および全身副反応の出現率が有意に低かった.さらに全ての副反応のピークは半数以上の症例が接種翌日であった.一般接種にも有用な情報と考え報告した.
隆起性皮膚線維肉腫は,局所で進行し転移はまれな良悪性中間群の腫瘍であるが切除が不十分であると後に高率に局所再発をきたす.しかし術前の画像検査で境界明瞭な病変で側方マージンを画一的に取るべきか判断に迷う症例もある.我々は画像所見で境界明瞭な隆起性皮膚線維肉腫患者の切除標本を用いて腫瘍の増殖パターンを検討した.画像所見で境界明瞭かつ辺縁が整な症例において,標本上で腫瘍の輪郭を越えた脂肪組織への浸潤は2 mm以内であり,条件に合う病変では比較的少ない側方マージンで断端陰性を達成できる可能性がある.