本研究の目的はdysplastic nevusの10%緩衝ホルマリン固定パラフィン包埋未染標本の蛍光法的特徴を明らかにし,蛍光細胞とHMB45・NKI/C-3染色性との相関を検討し,本母斑の特徴と思われる赤褐色調がpheomelaninの存在に基づくとの観点から検索することである.被験症例は21症例56検体で,複合型が40検体と最も多く,次いで境界型が12検体である.得られた結果は以下のように要約された.1) 蛍光法と同一切片のHMB45・NKI/C-3免疫染色:蛍光法的特徴は境界型では表皮,複合型では病巣辺縁表皮の基底層,エクリン汗管円錐部や外毛根鞘の基底層に黄色~橙黄色特異蛍光を発し,ときに樹状枝突起を有する細胞が個別性~小胞巣状に増生し,これら細胞はHMB45,NKI/C-3ともに陽性で樹枝状形態を示す.真皮内の母斑細胞巣は上層を除いて蛍光を欠き,HMB45陰性であるが,NKI/C-3は陽性で,その所見は後天性色素性母斑のそれに類似する.2) pheomelanin生成の検討:個別性~小胞巣状に増生する黄色~橙黄色の蛍光細胞を覆うケラチノサイトの細胞質に,橙赤色~橙褐色物質が柱状に認められる.この物質はMasson-Fontana染色で黒染せず,sodium borohydrideで還元すると,その存在がより明瞭となり,同物質を含有する腫瘍細胞も認められた.この橙赤色物質は可溶化したpheomelaninやagouti mouseのpheomelanicな毛球部の蛍光顕微鏡的所見に一致する.3) 単純黒子型と真皮内型の存在:複合型~境界型dysplastic nevusの多発例で,胞巣形成はなく基底層に個別性に,また,真皮内胞巣の辺縁表皮の基底層に黄色~橙黄色蛍光細胞とケラチノサイトに橙褐色物質とがみられる症例があり,それぞれdysplatic nevusの単純黒子型,真皮内母斑型であることを思わせた.4) 局所再発例:1例のみで,再発に再生エクリン汗管の関与が大であると考えられた.5) dysplastic nevus syndrome:Kraemerらの分類typeCに相当する62歳の男性例1例のみであった.以上,臨床的特徴と考えたdysplastic nevusの赤褐色調はケラチノサイトのpheomelaninの存在に基づくもので,pheomelanin産生細胞は黄色~橙黄色蛍光細胞と思われた.
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