第一篇において述べたように,われわれは桂皮酸コレステロールエステル(CC),スクアレン(Sq),ビタミンA(VA)のような活性不飽和化合物が実験動物に対して脱毛性を有しており,またこれらが毛髪周期に影響を与えることを知つた.そこで活性不飽和化合物のこのような皮膚に及ぼす影響の作用機転を知る為に,こゝでその化学構造と反応性の関係を検討してみたい.ある種の不飽和化合物は生細胞(構成蛋白,酵素も含む)のSH基を不活性化することによつて有効な作用を行うことはよく知られている.皮膚科領域において代表的なものはすでに述べたFleschの脱毛性化合物である.彼はallyl基およびvinyl基を有する合成不飽和化合物並びにビタミンA,スクアレンのような天然不飽和化合物の動物に対する脱毛作用を試験した結果,その作用機転が,RSH+>C=C<→>C-SR-CH<に従つて蛋白中のSH基を不活性化する為であろうと推定した.そうしてこれらの不飽和化合物の中,脱毛効果を有するものについてみると二重結合の隣にエステル基,Cl,メチル基などの電子牽引性又は電子反溌性置換基をもつか,あるいは共軛二重結合によつて二重結合がSH基との反応性を与えられている.1889年Eykmanはchavicol(4-oxy-1-allyl benzene)がフェノールの5倍,またオイゲノールの2倍の抗菌性を有することを報告している.またある種の抗生物質が抗菌性を示すのはその構造中のCO基に共軛する末端二重構造即ち,CH2=CH-C=O-なる構造がSH基に対して大きい反応性を有しており,これが菌体SH基を不活性化して菌代謝を妨害する為であると報告されている.またallyl aminとか蟻酸アリルのような不飽和化合物がSH基を不活性化することは,かなり以前から知られている.Nicoletはα-β不飽和ケトン(-C=C-C=O-)へbenzyl及びP-tolyl mercaptanが100℃で容易に附加すること及びα-β不飽和エステル(-C=C-C=O-OR)へは同様な附加がやゝ困難であるが,piperidinの存在によりこれが促進されることを見出した.またMethyl cinnamateの側鎖二重結合も幾分反応性が高められているとしている.更に彼はaminoacrylic acidに対するmercaptanの附加反応に関連して,cystine,methionine,homocystineの可能な生合成の初期段階に,SH反応が重要な役割を果すものと考えている.Morgan及びFriedmanは,前述の抗生物質と類似な構造をもつマレイン酸について実験を行い,gluta-
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