本稿では結節性痒疹と多形慢性痒疹の免疫学的差異を,血液検査や病理所見,昨今の生物学的製剤に対する治療反応性などから考えてみたい.特に,Th2サイトカイン,Th17細胞/IL-17,IL-22,好塩基球・マスト細胞を軸として,各病型の病態への関与を検討した.
乾皮症,皮膚瘙痒症及び結節性痒疹の病態には,角層バリア傷害が何らかの形で関与し得るという共通点があるが,免疫学的異常や神経学的異常の関わり方に大きな違いがある.乾皮症では,基本的に免疫学的異常や神経学的異常の関与はない.皮膚瘙痒症の少なくとも一部では神経系,免疫系の機能的変化が病態に影響し得るが,それらの構造的変化は明確ではない.結節性痒疹では明確な構造的,機能的変化を伴っている.
虫刺症の特徴として,①皮疹の分布は非対称的で,偏在していることが多い.②膨疹,紅斑,丘疹の中心に刺点が見られる.③痒み,あるいは痛みを伴う.④同じ虫でも刺された回数により症状の程度に個人差を生じる,という点が挙げられる.一方,痒疹(虫刺症を除く)では刺点のない丘疹,結節を生じる.しかし,搔破によるびらんや痂皮を伴うと,個疹の性状だけでは痒疹と虫刺症との鑑別は難しいため,皮疹の分布や病歴により診断する.特に亜急性痒疹は疥癬との鑑別が必須である.症状をくり返さないためには原因種を突き止めることが重要である.
2011年~2020年に初期治療を目的に群馬大学皮膚科に入院した新規天疱瘡患者45例について診療録をもとに調査した.免疫グロブリン静注療法(IVIg)は45例中9例に実施しており,臨床像,治療歴,IVIg導入理由,治療効果,52週後および104週後のアウトカム,有害事象についてIVIg非実施例との比較も含めて検討した.IVIg実施群で治療開始8週後の抗デスモグレイン抗体価は有意に低下したが,アウトカムに有意差は得られなかった.本研究は少数例の後方視的研究でありさらなる検討が必要である.
63歳,男性.中咽頭癌に対するニボルマブ導入10週後に体幹に搔痒を伴う紅斑を生じた.病理組織学的に真皮内に類上皮細胞とLanghans型巨細胞を含むサルコイド様肉芽腫を認めた.他臓器症状は認めず,血清アンギオテンシン変換酵素の値は正常であった.ステロイド外用剤のみで皮膚症状は軽快したが,甲状腺や膵臓にも免疫関連有害事象が出現したため最終的にニボルマブは中止された.免疫チェックポイント阻害剤による皮膚限局型サルコイド様肉芽腫は稀であり,そのメカニズムについても考察した.