ヒト皮膚真皮線維芽細胞の初代培養を用いて,その培養線維芽細胞の形態と機能に対するHydrocortisoneの影響を検討した.具体的には細胞の増殖能,蛋白合成,細胞表面を含む細胞形態,微小管,アクチンフィラメント,フィブロネクチンの分布,細胞の接着伸展性をとりあげた.低濃度のHydrocortisone投与では細胞増殖が促進され,血中生理的濃度に近い濃度(0.1μg/ml)で最も著明であった.高濃度(50μg/ml)では,細胞増殖は逆に抑制された.また加齢により,Hydrocortisoneに対する増殖能についての感受性は低下した.細胞形態については,細胞増殖を抑制した高濃度のHydrocortisone投与(50μg/ml)により,偏平,伸展大型化し,突起は縮小し,円形あるいは多角形化した.また細胞質内脂肪滴も著明に増加した.微小管の分布は組織化学的に不明瞭になり,またアクチンも減少したが太くて直線的なフィラメント束は著明になった.また細胞中央部の顆粒状に染まるフィブロネクチンも減少したが,細胞表面,細胞間質に線維状に染まるフィブロネクチンが増加した.そして継代培養後90分の観察では接着伸展性も著明に低下した.一方,細胞増殖を促進した低濃度のHydrocortisone投与(0.1μg/ml)でも高濃度のHydrocortisone投与ほど著明ではないが,形態像,接着伸展性において同様の変化がみられた.これらの結果は,Hydrocortisoneはヒト皮膚線維芽細胞に対して,その形態と機能,増殖能などに多彩な影響を与えることを示唆している.またアクチンフィラメント,微小管,フィブロネクチンの分布の変化は,細胞外形の変化にほぼ一致しており,これらの細胞骨格,フィブロネクチンは細胞外形の維持に重要な役割をはたしていることを示唆している.
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