悪性黒色腫に対する化学療法として頻用されているdacarbazineは治療関連白血病やmyelodysplastic syndrome(MDS)を起こす可能性が指摘されている薬剤であり,最近本邦でも白血病やMDSを生じた悪性黒色腫患者が報告されている.そこで厚生省がん研究助成金班会議の構成施設で悪性黒色腫患者における血液癌を含めた重複癌の実態調査を行うことにした.対象は原則として1984年1月~1998年12月に各施設を初診した悪性黒色腫患者とした.調査項目は総患者数,重複癌患者数,悪性黒色腫の診断前後別患者数,悪性黒色腫に対する化学療法施行の有無別患者数および重複癌の種類である.9施設から集計された患者総数は1,242人で,60人(4.8%)の重複癌症例が確認された.悪性黒色腫の診断前に他の悪性腫瘍の診断がなされていた症例は26例(2.1%),悪性黒色腫の診断以後に他の悪性腫瘍が発見された症例は34例(2.7%)であった.この悪性黒色腫診断以後に他の悪性腫瘍が発見された症例について治療との関係をみると,何らかの抗腫瘍化学療法を受けていた患者が25人(悪性黒色腫に対して化学療法を受けたことがある患者数824人中に占める割合は3.0%),いわゆるbiological response modifiersの使用のみの患者が1人(同44人中の2.3%),化学療法未施行例が8人(同374人中の2.1%)であった.化学療法後に診断された重複癌は,肺癌5例,直腸癌4例,甲状腺癌3例,肝癌および胃癌2例,結腸癌,大腸癌,胆嚢癌,前立腺癌,骨肉腫,子宮癌,悪性黒色腫,有棘細胞癌,急性骨髄性白血病,MDSがそれぞれ1例ずつであった.白血病とMDSを発症した各1例は,いずれも悪性黒色腫の根治術後にdacarbazine,nimustine hydrochloride,vincristineからなる補助療法を受けていた.今回の調査では悪性黒色腫の術後観察期間が十分ではない症例も含まれているが,重複癌の合併率においてメラノーマに対する化学療法施行群,biological response modifiers治療群,および末治療群間に統計学的に有意な差はみられなかった.しかし化学療法剤によって発生したと考えられる白血病とMDSがそれぞれ1例みられており,特に術後補助療法としての化学療法の適応については,その選択に際して慎重な検討が必要と思われる.
抄録全体を表示