アトピー性皮膚炎入院患者の皮膚病変部の重症度(severity score)とS. aureusの菌量測定を,①抗菌薬内服,②ステロイド薬内服,③ステロイド薬外用,④非ステロイド薬外用の前後に行った.その結果から以下のように考えられた.1)アトピー性皮膚炎の皮膚病変部におけるS. aureus存在の意義:S. aureusが107cfu/cm2<の菌数の症例はS. aureusによる二次感染である.106~107cfu/cm2の菌数の症例ではS. aureusの存在は感染症ではなくcolonizationであるが,皮疹の増悪因子になっているものと考えられる.皮膚病変部のS. aureusの菌数が106cfu/cm2>の症例ではS. aureusが皮疹の増悪因子になっているかどうかは個々の症例により異なるものと思われる.2)アトピー性皮膚炎に対する抗菌薬療法:絶対的適応は臨床的に膿または膿性浸出液を付し感染症の所見を認める症例すなわち皮膚病変部でS. aureusが107cfu/cm2<検出される症例に限られる.皮膚病変部でS. aureusの菌量が106~107cfu/cm2の症例では抗菌薬療法の絶対的適応ではない.しかし,これらの菌数の症例でも皮膚病変部が湿潤している場合には抗菌薬療法の適応となる.抗菌薬を投与する場合は耐性菌への菌交代現象に注意し必要最小限の投与期間とする.3)抗菌薬非投与群の血清IgE値(IU/ml)とS. aureusの菌数変動の関連:血清IgE値が1,500値IU/ml<の16症例は経過観察中S. aureusは除菌できなかった.血清IgE値が1,500IU/ml≧の11症例中7症例では経過観察中S. aureusの除菌が観察された.血清IgE高値例では皮疹が重症な例が多く皮膚病変部よりS. aureusが除菌されにくい可能性が示唆された.アトピー性皮膚炎は高IgE血症伴い,皮膚炎が慢性で難治例が多い.そのためアトピー性皮膚炎ではS. aureusの検出率が高い可能性が考えられた.
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