天疱瘡は細胞接着因子であるデスモグレインに対する自己抗体により,口腔粘膜,皮膚に表皮内水疱を生じる臓器特異的自己免疫性疾患である.天疱瘡の病態解明のために近年天疱瘡患者や天疱瘡モデルマウスから多数の抗Dsgモノクローナル抗体が単離されており解析が行われてきた.天疱瘡モノクローナル抗体の解析を通じて明らかになってきた天疱瘡の水疱形成機序の知見について解説する.
水疱性類天疱瘡(bullous pemphigoid:BP)は,ヘミデスモソーム構成タンパクであるBP180とBP230に対する自己抗体により真皮表皮境界部に水疱が形成される疾患である.多くのBP患者は抗BP180抗体とともに抗BP230抗体も陽性であるが,抗BP230抗体はepitope spreadingにより生じると考えられている.一方,臨床症状が軽度の抗BP230抗体のみ陽性のBPも存在しており,抗BP230抗体の産生機序ならびに病原性は不詳である.抗BP230抗体を有するBP230欠損マウスより脾臓細胞を採取,免疫不全マウスに移植したところ足,尾にびらん,痂皮などBP様皮膚症状が出現した.表皮下の裂隙形成,真皮表皮境界部へのIgGの沈着が認められ,BP230タンパクのみを標的とするBPの存在が示唆された.また,BPモデルマウスの皮膚に外傷を加えることで,高率なBP様症状の誘導ならびに臨床症状の悪化も確認され,外的要因によるBP発症の可能性が示された.
疱疹状皮膚炎(DH)は,臨床的に痒みを伴う紅斑,小水疱を生じ,HLA-DQ2/DQ8ハプロタイプに関連するグルテン過敏性腸疾患(GSE)や真皮表皮接合部の顆粒状のIgA沈着を特徴とする疾患である.欧米では比較的一般的な疾患であるが,日本ではまれな疾患である.日本人DH患者では,真皮乳頭の線維状のIgA沈着やGSEを伴わないなど,欧米のDHとは異なる特徴がしばしば認められる.本稿ではDHの臨床的,組織学的,免疫学的特徴について解説し,DHにおける水疱形成機序について考察する.
表皮水疱症は,表皮基底膜領域蛋白の先天的機能不全を原因として,全身の皮膚に水疱やびらんを繰り返す疾患群である.過去30年間の研究によって,ほとんどの原因遺伝子とその水疱形成の機序が解明されてきた.本稿では,古典的4病型とその水疱形成機序ならびに,近年報告された表皮水疱症の新しい原因遺伝子について概説する.
免疫チェックポイント阻害薬投与中に皮膚症状を生じた110例について,臨床的分類,重症度,治療効果予測因子との関連性を後方視的に検討した.原疾患である悪性腫瘍の病勢がコントロールされている群では白斑と皮脂欠乏性湿疹に加え,皮膚以外の2臓器以上にも有害事象を生じた症例が有意に多かった.治療有効群は無効群と比較し,リンパ球数は皮膚症状出現以前で高く,好中球/リンパ球比は皮膚症状出現前から改善時にかけて低かった.経時的な血液検査解析は皮膚障害の出現や治療有効性の目安となる可能性があると考えた.
白斑は環境や遺伝的要因に加え,メラノサイト傷害性T細胞が関与する自己免疫疾患である.外用治療薬として,ステロイドやタクロリムスなどが用いられてきたが,近年,サイトカインシグナルを伝達制御するチロシンキナーゼファミリーであるJanus kinase(JAK)を分子標的とする新たな外用薬が登場した.米国ではルキソリチニブが既に用いられており,本邦での白斑への適応も期待できる.本稿では,作用メカニズム,効果,安全性の視点から,白斑治療になぜJAK阻害外用薬なのかを概説する.
42歳女性.右乳がんに対し,20XX年5月右乳房全切除術,遊離腹部皮弁再建術を行い,20XX+1年10月,20XX+2年11月に2回の修正術を行った.右乳房の手術痕の一部に20XX+1年1月紅斑が出現し徐々に拡大傾向を認めたが,治療介入されず,20XX+3年5月当科初診.右乳房の縫合線全体に浸潤を触れる紅斑,その周囲に鱗屑を付す色素沈着を認め,貨幣状湿疹と診断した.保湿励行とステロイド外用治療を開始したが,改善までに時間を要した.乳房再建術後に貨幣状湿疹を生じる場合があることを皮膚科医も認識し,保湿励行,早期治療介入に努めることが重要であると考える.