貼付試験を行なつて発赤,丘疹,水疱発生などの陽性反応を得たとき,その反応をallergicなものか,あるいは単にtoxicなものかを鑑別するに困難な場合がしばしばある.一般には健常人で陽性反応を呈さぬ濃度及び量のある物質を貼付して陽性を示すのはallergicなものとも見做し得よう.しかし,Bloch und Jarger,Rostenberg & Sulzbergerらが接触皮膚炎,湿疹などの所謂アレルギー皮膚疾患者では種々の物質に対して多価な過敏性を呈することが多いと唱え,アレルギー皮膚疾患者の非特異的な接触刺激閾値の低下を重視した.以来,健常人には陽性反応を呈さぬ方法で実施された貼付試験が陽性の結果を示しても,直ちにこれをallergicな反応と断定するには根拠が乏しいと考えられるに至つた.かかる貼付試験成績判定に問題があるにしても,同試験の有用性は否定できるものない.却つて一連の皮膚刺激物質の貼付試験により,個体の湿疹準備性を推測する.即ち湿疹試験として広く利用されるようになり,また接触アレルギーにては抗原検索の確実な血清学的方法のないことから,抗原決定のために貼付試験はいよいよ広く使われている.しかし,現在ではallergic,toxic両反応を区別する確実な鑑別法なく,この問題に関してはLandsteinerらのいう如く,アレルギー性皮膚疾患者の陽性貼付試験は使用物質が真にallergicな過敏症を常に示すとはいえぬから,慎重に判定すべきであろう.また接触アレルギーの抗原,とくに化学薬品類の多くは一定以上の濃度では皮膚細胞にtoxicな作用を有するが,閾値以下の濃度では感作された個体にのみallergicの反応を呈するという理論は正しい.この場合,toxic,allergicの両反応を区別する限界濃度の決定が前提条件として不可欠である.湿疹試験に用いられるテレピン油の文献に報告された限界濃度を窺うに,JakobsによるとBloch,Behringは50%,Carrieは40%,Perutz,Bonnevieは10%と夫々異つた数値を主張している.また使用薬品の精製度,接触方法にも問題はあろう.しかし,このように限界濃度の決定は必ずしも容易でない.一物質についてさえ限界濃度の決定が困難であるし,それが個々の研究者に委ねられている現状では,無数の接触源となる物質の妥当な限界濃度の決定はにわかに期待することはできない.限界濃度,即ち閾値決定を困難にさせる因子は被検者側にも認められる.例えばHaeberlinによると,種々の濃度のクロトン油,クリサロビンを用いたtoxicの反応の研究では,角層の厚さがtoxicの閾値の差異を生ぜしめると.次に問題となるのは,得られた陽性反応そのものからallergic,toxicの区別が可能であるかということである.Sulzberger & Wittenは鮮明な小水疱の集簇を示す反応はallergicの反応に属し,僅かの丘疹,または膿疱,小水疱が不規則に毛孔,または汗孔に一致する反応はtoxicの反応とし,Tzanckはallergicのは比較的境界不鮮明,小水疱を形成し,痒感あるが,toxicのは壊死あるいは疼痛あり,境界不鮮明で,肉眼的に鑑別可能という.このようにallergic,toxicの両反応は,それぞれ極端な場合は,肉眼的に鑑別が可能の如くである.しかし,貼付試験の成績が単なる発赤あるいは腫張の場合は,両者の区別ができぬ場合も多い.
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