近年に於ける各種抗生物質の発達は今まで治癒困難とされていた多くの疾病に対し輝かしい結果をもたらしたが,しかし乍らその半面抗生物質の普及と共に最近カンジダ症を含む皮膚真菌症の増加が著しく,耐性獲得の問題と共に菌交代現象の問題が提起され,以来多数の報告がみられている.又カンジダ症以外の皮膚真菌症も文明の発達と共に生活條件等の局所的環境や,特効的治療剤のない現状からその増加は周知の如くである.そもそも皮膚真菌症の治療に関してはかなり古くから種々の記載があるが,いずれも決定的なものがなく変遷を繰返していた.近年に至り各種抗真菌剤の研究が盛んとなり新らしい化学的合成剤及び抗生物質等が続出し,真菌症の治療に目覚しい進歩をもたらしている.最近の化学的合成剤のうち主なものは脂肪酸誘導体,芳香族誘導体及び有機水銀化合物等があり,抗生物質としてはTrichomycin,Aureothricin,Actidione,Nystatinその他がある.筆者は先に肉芽腫形成(Granuloma trichophyticumMajocchi)を伴う猩紅色白癬菌による汎発陸自癬を経験したが,各種の抗真菌剤に対して抵抗し仲々難治であつた.たまたま白癬菌の侵襲を受けたその患者の鼠徑部リンパ腺を剔出した際,術後瘻孔を残したが,手術7日後に瘻孔を中心として手掌大の健康皮膚面が現われたのでその原因を調査した所,包帯交換時消毒の目的で患部に塗布したMerzoninであることが判明し,その抗真菌作用並びに臨床治療成績の概要を報告した.Merzoninは当時発表された比較的優秀な抗真菌剤に比し抗菌價が10~100倍以上も高い所から,その後引続いて各種水銀製剤が合成され,抗真菌剤の所謂A級に属するものは殆ど水銀製抗真菌剤によつて占られるに至つた.抗真菌剤の優劣は単に試験管内の抗菌作用によつてのみ云々し得るものでなく,動物実験及び臨床治療試瞼等の成績から総合的に判定すべきものであるが,最近の如く多数の抗真菌剤が発見或いは合成される現状では,これを1つ1つ総合的に判定することは困難であり,一應試験管内実験のみで選擇を行わなければならぬのは止むを得ない現状である.しかし乍らCandidaを除く所謂病原性皮膚真菌症の主なものは殆ど他の細菌類に比較して発育が遅く,判定に数週間を要する為,薬剤の効力を或程度予測し得る簡便な薬剤選擇法として,水銀製抗真菌剤がCandidaの琥珀酸脱水素酵素(succinic de-hydrogenase)(以下コ酵素と略)に與える影響を殺菌効果並びに臨床治療成績と比較観察を試みた.コ酵素は廣く正常組織,細胞に分布し,既に多くの研究が行われている.即ちHopkins and Morgan(1938)によりコ酵素が酸化,還元系の酵素であることが確認されて以来,コ酵素は生活細砲の発育特に呼吸に重要な関係を持つと云われる.即ち多くの動物及び植物細胞の呼吸に関し,脂肪,含水炭素及び蛋白の酸化に関する一連の反應に深い関係を持つと考えられている.コ酵素の証明法としてはPechmann and Runge(1894)によりtriphenyl tetrazolium chloride(TTC)が作られ,Kuhn and Jerchel(1941)は植物組織が無色のテトラゾリウム塩を赤色のformazanに変化させることを発見した.更にLakon(1942)により赤
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