最近,筆者らを含めた複数の研究者により,皮膚がcorticotropin-releasing factor(CRF)およびproopiomelanocortin(POMC)ペプチドと,それぞれに対応するCRF受容体(CRF-R),メラノコルチン受容体を発現していることが証明された.培養ケラチノサイト,メラノサイト,線維芽細胞では,紫外線照射や炎症性サイトカイン投与でCRF,POMC遺伝子の発現が増加し,さらにこれらの細胞にCRFを添加するとPOMCペプチドならびにコルチコステロイドの産生が有意に高まることも観察された.また,ヒトおよび動物の全身皮膚に紫外線を照射すると血液中のPOMCペプチドが急激に増加することも確認された.これらの所見をもとに,皮膚には視床下部・下垂体・副腎系(hypothalamic-pituitary-adrenal axis:HPA axis)と同等のCRF―CRF-R―POMC反応系が存在し,皮膚に直接加わった局所性ストレス(外傷,紫外線,感染など)に対し皮膚独自のストレス応答システムを司っているとの概念が確立しつつある.最近,我々は全身性ストレス(フットショックストレスと精神ストレス)を動物に負荷すると,CRFの作用を介してラットの接触皮膚炎が増悪し,あるいはマウス毛周期の休止期が延長しそれに続く成長期の誘導が顕著に遅延することを証明した.以上のように,皮膚は局所的ストレッサーならびに全身性ストレッサーに対し皮膚CRF―CRF-R―POMC系を介したストレス応答機構を有し,生体の恒常性維持に関与しており,このストレス応答系の破綻は疾病の発症につながると考える.
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