従来,汗腺の分泌機能状態の組織化学的指標としてはグリコーゲンが唯一の物質とされており(湯山,Montagna et al.,Shelley et al.,Rothman,Cormia et al.,伊東ら),一般に明調細胞に多いといわれている.グリコーゲンは汗腺機能営為のエネルギー源とみなされているが,その消長に関して湯山はピロカルピン注射による発汗後微量となるか消失することを認め,腺細胞の活動中は消失し,休息後再現をみると報じ,Shelley et al.,Montagna,Cormia et al.も同様の見解を述べている.次に,汗腺において注目されることは各種酵素の存在であり,三浦(祐)は酸フォスファターゼ以外の殆んど全ての酵素活性をエクリン腺に認めており,Dobson et al.は非特異性エステラーゼ(以下非特エと略記)活性値がグリコーゲン消失時上昇することを報じている.また,教室菅原(亨)によれば顔面,腋窩及び四肢の汗腺細胞非特エ活性は他部のそれに比して強いが,Montagnaの指摘している暗調細胞の非特エが明調細胞のそれを上廻わるような所見は確認されず,各種皮膚疾患のうち汗潴溜症候群に属する疾患についてみれば,尋常性乾癬の非特エ活性は正常ないし軽度増強を示しており,Steigleder,Braun-Falcoの観察と一致する.また,尋常性魚鱗癬,,脂漏性湿疹,慢性湿疹等では健常のそれと大差なく,アトピー皮膚炎では活性低下を来たしている点で単に汗排泄機能のみならず分泌機能低下をも示唆する所見とされている.上述の如く酵素特に非特エ活性の消長も汗腺機能をある程度反映するものと考えられる.一方,核酸もまた細胞の蛋白合成,核分裂及び新陳代謝に重要役割を演ずることが知られているにも拘わらず汗腺細胞の核酸に関する報告は極めて少ないが,山辺,伊藤(勇)によれば表皮の角化,肥厚増殖或いは汗脂分泌等細胞機能の旺盛と考えられる部位では原形質RNA(リボ核酸)の増加と核DNA(デスオキシリボ核酸)減少の傾向が,また,細胞機能低下の窺われる部分では逆にRNAの減少,DNA増加がそれぞれ強いとされている.著者は汗腺機能検索の一端として汗腺細胞を組織化学的に検索しようとしたが,従来の組織化学的手法では量的関係或いは活性度の比較は概ね光学顕微鏡を通じて観察された染色度の強弱に基づいて行なわれるので客観性に欠けることが避けがたい.しかし近年Casperssonによつて創案された組織吸光スペクトル法または顕微分光測定法では未だその手法に改良の余地は残されているが,組織または細胞の物質をその占める場において半定量的に測定が可能であるので,二,三皮膚疾患における汗腺細胞核DNAの分布消長を本手法を用いて観察した.以下その成績について報告する.
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