此の標題に類した文献を繙くに,Rappaport(1956)はアトピー性皮膚炎患者の皮膚を組織学的に検索して,細胞内浮腫のある急性炎症時には表皮細胞はメラニン顆粒を欠き,且つメラノサイト(Mcと略す)のドーパ陽性度は高まること,また表皮の浮腫が消褪して慢性期に移行するとメラニン顆粒が再び表皮に現れ且つMcのドーパ陽性度が減弱することを述べ,急性炎症時の表皮内色素の減少は,表皮内浮腫のために樹枝状突起とマルピギー細胞の接触が妨げられるによるのか,或は浮腫性となつた表皮細胞がメラニン色素を受取る能力を失うかによるのであろうと想像している.太田(1958)は同様の研究をアトピー性皮膚炎の他,各種炎症性皮膚疾患即ち紅皮症,乾癬,脂漏性湿疹,ヴィダール苔癬,急性接触性皮膚炎にまで拡げて,Rappaportの説を確認し,表皮メラニン沈着とMcドーパ活性度は相関関係にあり,Mcは表皮のメラニン沈着を補給すると解釈した.また後に引用するように造癌物質に依るMcの動き(Szabo)も観察されている.Mcがマルピギー細胞と起源を異にし,神経櫛に由来することは今日広く信ぜられている.神経櫛起源説が広く世に知られるに先立ち,表皮の2元説即ち表皮を,マルピギー細胞及び樹枝状要素(=Mcその他)との共棲に依つて成立つものとする考え方がMasson等に依つて唱えられた.即ちMcの起源は何であるにせよ,表皮をマルピギー細胞とMc(及びその他の神経櫛起源性細胞)との共棲体と看做すとき,其処に見られる諸現象は,はじめて充分に理解することが出来る.Pinkus(1959)等はMcとマルピギー細胞の共棲関係を,実験的に分離せしめるという観点より数々の業績を報告した.例えば,plastic tapeで角質を除去する事により表皮細胞の細胞分裂を起し得るがMcの夫は起らないことは,両者の間に生物学的独立を示唆するものとし,また表皮細胞の増殖と色素産生を起し得るThorium Xを照射すれば,Mcの酵素活性及び細胞質が増大し,樹枝状突起は長く且つ分岐頻繁となり,またメラニンを有するMcが表皮浅層へと上昇する所見が得られるとした.またPinkus門下のFan et al.はモルモットの耳朶にThorium Xを照射してMcを刺戟すると,鍍金法で証明され得るeffete Mcが消失或はその金親和性が低下すると述べている.本論文はモルモット皮膚に起炎物質として知られている2-4ヂニトロクロールベンゼン・アセトン溶液(DNCB液と略す)を適用した場合のamelanotic melanocyte(無色Mcと略す)の態度及び水疱部に於けるpigmentary melanocyte(有色Mcと略す)の態度等につき記載且つ是を解釈せんとするものであるが,それに先立つてメチレン青超生体染色並びに正常モルモットのMc,並びに神経末梢に就いても論じたい.
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