Retinoic acid(ビタミンA酸)は,生体内におけるビタミンAのある種の作用の本態ではないかと注目されている.最近,皮膚科領域で,Retinoic acidが,角化症の治療にもちいられているが,その効果とこのビタミンの生理的作用との関係は不明である.われわれは,皮膚領域におけるビタミンAを再検討するために,まず第1歩として,Retinal(ビタミンAアルデヒド)からRetinoic acidへの転換を,Polyamide薄層クロマトグラフィーを用いて定性的に検討した.その結果,ラット全層皮膚,表皮,ヒト表皮の抽出標品により,in vitroで,RetinalがRetinoic acidへ酵素的に転換することが証明された.表皮でRetinalの酸化に関与する酵素系の活性は,全層皮膚の活性より強いと思われた.ラット小腸の活性はさらに強かった.ビタミンAは,生体内で,(ビタミンAエステル)■Retinol(ビタミンAアルコール)■Retinal(ビタミンAアルデヒド)→Retinoic acid(ビタミンA酸)→代謝物(X)と代謝される.Retinoic acidは,視覚に対する作用は持たぬが,Retinolと同様に,発育促進作用,抗角化作用を持ち,ビタミンAの生理的作用機序解明の手掛かりとして注目されている.皮膚科領域では,古くから,尋常性魚鱗癬をはじめとする角化症とビタミンAが関連づけて考えられているが,その関連の直接的証明がなく不明の点が多い.最近Reinoic acidの局所的応用が行なわれ,尋常性痤瘡,尋常性魚鱗癬,魚鱗癬様紅皮症,ダリエ氏病に,ある程度の効果が得られることがわかって来た.しかし,これが,このビタミンの生理的作用とどのような関連性をもつかというと,未だ,客観的根拠は殆んどないといえる.一方,Rentinalをラットに投与した時,その代謝物として各種臓器にRetinoic acidが微量ではあるが見いだされることが,Dunginら,Deshmukhら,Zileらによって確認され,Retinoic acidは,ビタミンAのある種の作用の本態ではないかと重要視されるようになった.われわれは,皮膚科領域のビタミンAの役割を生化学的に再検討するために,まず第1歩として,皮膚におけるRetinalの代謝を検討した.
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