表皮のケラチン形成Keratinizationは表皮の最も重要な働きの一つであり,これは表皮細胞が基底細胞層より角層に至るまでの複雑な増殖,分化の過程を経てケラチンと呼ばれる,種々の外界からの刺激に極めて抵抗の強い一群の蛋白質を形成する過程である.このケラチン生成過程を形態学的,生化学的に究明しようとする試みはRudall(1952),以来種々なされてきた.しかし角層よりケラチンを抽出することは,角層が各種の物理化学的な抽出方法に抵抗するため,通常の蛋白質を抽出するごとく容易ではない.このため各種の抽出方法が試みられてきた.その主なものをあげれば,Rudallは牛の鼻上皮をureaで抽出し,pH5.5画分とpH4.5画分の2画分を得た.Carruthersらはmouse epidermisよりpH4.5,5.5,6.3画分を得,pH6.3画分より更にpH5.5,pH4.5及び新しいpH5.0画分を分離した.Rothbergは人表皮より0.04M NaOHを用いてpH5.5,5.0及びpH4.5画分の3画分を得ている.Crounseはこれらの成績をまとめて,human epidermisとcallusについて,抽出方法,抽出条件等について詳しく再検討している.これらはもちろん,究極的には角層中の不溶性線維性蛋白成分の抽出分離を主な目的としているものであるが,一方これと平行して角層のいわゆる可溶性画分(water soluble component)も,ケラチン形成過程の単なる副産物としてではなく,この過程に直接参画する重要な要素として注目されてきた.当初water soluble componentはその大部分が汗より由来すりものとの主張が有力であつたが,やがてSzakall,Spierらにより,これらが角層のケラチン形成過程において上皮細胞より形成されるものであることが次第に明らかにされ,その後もMatoltsy,Roe,Flesch & Esoda,Wheatleyらのすぐれた研究が続き,いずれも角化過程中に占めるwater soluble componentの重要な意義を認めている.これら一連の研究の中にも,角化過程を角層構成蛋白のアミノ酸分析の面から検討したものが見受けられるが,それらはいずれも分析方法としてはペーパークロマトグラフィーを用いたものである.また本邦においても吉田,原田,入交,佐藤らのやはりペーパークロマトグラフィー,高圧濾紙電気泳動法を用いての研究があり,いずれもすぐれた技術と大変な労力や時間を必要としたものではあるが,要するにその分析結果は定性を主とする半定量的な成績にとどまるものである.しかし1958年Spackmanらにより開発されたアミノ酸自動分析装置の出現により従来のアミノ酸分析に対する概念は一変した.近年このアミノ酸分析装置を用いての角質蛋白の研究は盛んであるが,それらは主にいわゆる不溶性画分(water insoluble component)の分析に目が向けられており,可溶性画分(water soluble component)特に遊離アミノ酸(free amino acid),可溶性蛋白(water soluble protein)の分析についてはまだほとんど手がつけられていない.僅かにSchwarzらの水溶性画分に関する研究が報ぜられているが,この報告にしろ,また他の不溶性画分に関するこれまでの報告にしろ,いずれもすべて単一の抽出画分のみについての分析にとどまつており,同一試料の各画分についてそれぞれアミノ酸自動分析装置を用いて分析し,その結果を比較論考したものは見出されない.この点に鑑み,著者は人表皮及び
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