74歳,女子にみられたverrucous trichilemmal tumorにおいて,病理組織学的に腫瘍巣内に特異なdyskeratotic cellを多数認めた.この細胞は,HE染色で核周囲の細胞質が強いエオジン好性を示し,さらにその周囲の細胞質は,エオジンに淡くそまり,clear zoneを形成している.核周囲のエオジン好性部は,電顕的に核を囲続する張原線線維が束状をなしており,involucrin弱陽性である.一方,周囲のclear zoneは,電顕的に細胞内小器官に乏しく,involucrin強陽性を呈する.また,腫瘍巣は抗毛ケラチン単クローン抗体HKN-2,HKN-4が全体に陽性,HKN-5は一部分陽性,HKN-6は陰性であった.この特異なdyskeratotic cell(D cellと略記)はinverted follicular keratosis,keratoacanthoma,malignant proliferating trichilemmal tumor,malignant trichilemmomaなどの毛包腫瘍において高率に出現し,いずれも外毛根鞘角化あるいは,squamous eddiesなどの毛包の異常角化に伴って認められた.しかしinterfollicular epidermal keratinocyte由来の腫瘍には見い出すことができなかった.以上より,D cellは,毛包漏斗部~峡部への分化を持つ外毛根鞘腫瘍に出現する異常角化細胞の一形態であり,外毛根鞘腫瘍と診断する際の一つの形態的指標になると考えた.また,これは良性および悪性腫瘍のいずれにも出現することから,腫瘍の悪性化を示すものではないと思われた.
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