16例の色素細胞母斑をその形態とDopa反応を電子顕微鏡的に観察した.真皮内母斑細胞は巣状をなし,その周囲のみでなく個々の細胞にも基底膜を認めた.Melanosome,premelanosomeの数は真皮上層から下層へ向って減少を示し,下層では全く認められない細胞も存在した.Golgi野はいずれの細胞でも比較的良く発達していた.真皮下層で母斑細胞間に神経要素と思われる構造を認めた.Melanosome,premelanosomeの形態は正常表皮および真皮内母斑被覆表皮のmelanocyteでは定形的構造を示したが,表皮内母斑細胞では定形的なものが多いが非定形のものもみられた.真皮内母斑細胞ではその形態はほとんど非定形で真皮上層部の母斑細胞にわずかに定形的なものを認めるにすぎなかった.また真皮上層部の母斑細胞において不規則な形のものおよび突起を有するものが認められた.Dopa反応所見では光学顕微鏡的には真皮内母斑細胞で真皮上層に陽性反応を認め,中・下層では陰性を示しているが,電子顕微鏡的観察では真皮下層の一部を除いてpremelanosomeとGolgi cistemaの一部に陽性反応を認めた.同様所見は正常表皮・真皮内母斑被覆表皮melanocyteおよび表皮内母斑細胞にも認められた.Golgi cistemaにおける反応性は真皮内母斑被覆表皮内melanocyteで最も強く,真皮下層の母斑細胞で最も弱い傾向を示した.しかし,melanosome,premelanosomeの量とDopa反応強度とは必ずしも平行しておらず,真皮内母斑細胞では真皮中層が最も強く次いで上層,下層の順であった.さらにDopa反応陽性cistemaの形態は表皮内melanocyteや真皮上層の母斑細胞では帯状であるが,真皮内母斑被覆表皮内melanocyte,表皮内母斑細胞,真皮中,下層の母斑細胞では一見酵素の貯留を思わせる不整形を示すものが認められた.表皮内melanocyteおよび母斑細胞においてDopa反応で細胞基質全体の電子密度の増加が認められたが,個々の細胞間に差があるのみならず同一細胞内でも末梢ほど強かった.まれに細胞内小器官を取囲んで限界膜を有する環状のDopa反応陽性反応部が認められた.
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