水疱性類天疱瘡,疱疹状皮膚炎および多形紅斑の皮疹をそれぞれ電顕的に観察し,所見を比較した.また,水疱性類天疱瘡と疱疹状皮膚炎においてヨードカリ貼布試験部位の皮膚を電顕的に観察した.得られた成績を要約すると次のようである.(1)水疱性類天疱瘡における変化はbasal laminaの不規則な下垂と不連続化として始まり,変化が進行するとintermembranous spaceが拡大し,そこに水疱が形成される.Basal laminaは水疱底に見られる.(2)疱疹状皮膚炎における変化は表皮内への多形核白血球の走入と基底細胞間隙の拡大として始まり,変化が進行すると基底細胞が変性し,拡大した細胞間隙に水疱が形成される.Basal laminaは水疱底に見られる.(3)多形紅斑における変化は真皮乳頭層と同下層の細小血管周囲の浮腫として始まり,変化が進行すると著明な浮腫と膠原線維の崩壊により乳頭層に水疱が形成される.Basal laminaは水疱蓋に見られる.以上,3疾患の初期の皮疹における初発変化,ひいては水疱形成の部位と機序はそれぞれ異なる.それによって3疾患の皮疹の鑑別も可能である.(4)水疱性類天疱瘡の比較的古い皮疹では再生表皮細胞が認められた.それが2~3層重層したところでは,細胞は胞体も核も横に細長く,細胞内小器官は豊富で,Golgi装置もしばしば認められた.それが数層重層したところでは上位の細胞の細胞質内にOdland小体が認められた.しかし,ケラトヒアリン顆粒や角化細胞は見られなかった.再生表皮の基底層にはメラノサイトが見られ,同細胞や周囲の表皮細胞内にはメラノソームやメラノソームコンプレックスが認められた.(5)水疱性類天疱瘡および疱疹状皮膚炎におけるヨードカリ貼布試験陽性部位の紅斑の電顕像では,両疾患の間に本質的な差違はなかった.主な変化は顆粒上層と上位有棘層における細胞間浮腫と表皮細胞の変性であった.したがって,この試験は皮疹状皮膚炎の診断に役立つとは思われない.
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