鳥取大学付属病院皮膚科における昭和56~59年4年間の白癬菌相を報告すると共に,多病型白癬合併例に注目して,統計学的に部位間の関連を検討した.また,全国施設の白癬全体と足白癬のTrichophyton rubrum/Trichophyton mentagrophytes比(以下TR/TM比)を文献的に検討し若干の考察を行なった.その結果,当科における白癬菌相では,1)総分離株639株の内訳はTrichophyton(以下T.) rubrum 475株(74.3%),T. mentagrophytes 130株(20.3%),Microsporum(以下M.) canis 16株(2.5%),Epidermophyton(以下E.) floccosum 5株,M. gypseum 3株,T. violaceum 2株であった.2)M. canisは昭和54年に山陰地方で初めて分離されたが,山陰地方での確実な初感染例は昭和57年に見られた.昭和59年よりM. canisの感染例,特に小児の頭部白癬が増加しているのが目立った.3)TR/TM比は,白癬全体では病型別3.65,患者別3.08であり,足白癬では1.83であった.当大学の過去の白癬菌相に比し,足白癬の最多分離菌はT. mentagrophytesからT. rubrumへと変遷していた.多病型白癬合併例に注目して,統計学的処理により部位間の関連を検討した結果,足と趾爪,手と指爪,顔面と顔面以外の体部が有意に合併しやすいという結果が得られた.足と趾爪の合併は,いわば同一病巣内の白癬であるためと考えられる.手と指爪の合併は,同一病巣内ということだけでなく,足・趾爪が一次病巣で結果的に手と指爪が合併している可能性も強いと思われた.顔面と顔面以外の体部の合併は,体部より顔面への接種,診断の部位的因子,菌学的因子等の多因子が関与しているものと考えた.当大学を含め全国23施設の白癬全体,足白癬のTR/TM比を文献的に検討した結果,全国的に南下するにつれ同比は高くなる傾向が見られた.足白癬は,北海道・東北・北陸地方ではT. mentagrophytesが常に優位ないしその傾向または同等の施設が多いのに対し,関東地方ではT. mentagrophytesが優位であった時期もあるが最近ではT. rubrumが優位を占め,関東以南の地方では沖縄県を除きT. rubrumが優位であった,当大学は関東地方の傾向に似ていた.
抄録全体を表示