有棘細胞癌は,その前駆病変である日光角化症やボーエン病などを含めると皮膚悪性腫瘍の中で最も頻度の多い疾患である.特に早期病変については皮膚腫瘍専門医以外の一般皮膚科でも取り扱う事が多く,疫学から診断,治療まで一定の知識が必要である.本項では有棘細胞癌の一症例を軸に疫学・予後,検査,治療(外科的治療,薬物療法など),術後経過観察,今後の新たな治療など有棘細胞癌について総復習する.
乳房外パジェット病は腺癌の一種で発症頻度は少なく,希少がんの1つである.アポクリン汗腺が多くある部位に生じやすく,外陰部が最も多く,肛門周囲,腋窩の順となっている.臨床的にはcommon diseaseとの鑑別に苦慮するが病理組織学的所見は特徴的で,皮膚生検により比較的容易に診断することができる.治療は手術療法が第一選択で,進行期の標準的治療は未だ確立されておらず,早期発見,早期治療が重要である.
メルケル細胞癌は,高齢者の露光部に好発する紅色調のドーム状結節性病変を呈するのが一般的だが,特異的な臨床像はない.病理組織学的には核/細胞質比の高い小型類円形細胞がシート状あるいは索状に増殖し,腫瘍細胞はわずかな細胞質と微細顆粒状クロマチンを有する円形核からなる.免疫染色ではCK20が特徴的で,核周囲にドット状に染まり診断価値が非常に高い.治療に関しては外科的切除が基本となるが,放射線治療も有効であり,集学的治療が必要となる場面も多い.
17歳女性.乳児期から暗紫紅色斑を手指,足趾に認め,重度の凍瘡として治療されていた.開放隅角緑内障の既往あり,同症状の家族歴なし.当科初診時は春であったが,両手指背側,両耳介,膝に暗赤色斑,痂皮,瘢痕が多発し,爪の部分的脱落を認めた.各種自己抗体は陰性.夏季は症状改善していたが,冬季は手指・足趾に水疱形成,潰瘍化を認めた.遺伝子検索を行ったところ,TREX1遺伝子にヘテロ接合性の病的変異を認めた.緑内障と重度の凍瘡様紅斑を伴うAicardi-Goutières syndromeと診断した.
72歳男性.食道胃接合部癌多発転移に対しラムシルマブ+パクリタキセル投与開始6週後より後頭部,頭頂部,眉毛部に境界明瞭な瘙痒伴う紅色丘疹がみられた.真皮内に大小様々な毛細血管の増生や拡張がみられ,多発性血管拡張性肉芽腫(多発性PG)と診断した.ラムシルマブ関連多発性PGと特発性PGでは血管内皮増殖因子(VEGF)-A,VEGFR-2の発現に差があり,別の機序を介して発生している.ラムシルマブはヒト型抗VEGFR-2抗体製剤であり腫瘍内血管新生を抑制するが,paradoxical reactionとして血管増生をきたしたと考えた.
皮脂欠乏症の治療に用いられる医療用保湿剤にヘパリン類似物質含有製剤がある.ヘパリン類似物質はコンドロイチン硫酸を多硫酸化させたムコ多糖(Mucopolysaccaride polysulfate, MPS)で高い吸湿作用及び保湿作用を有する.MPSは血流量増加作用,血腫消退促進作用,線維芽細胞増殖抑制作用など多様な薬理作用を有する.本稿では近年報告されたMPSの薬理作用を中心に治療薬としての作用機序についてまとめ,解説する.